山野内在カナダ大使

日加協会の皆様、

明けましておめでとうございます。

令和5年の始まりです。

皆様の健康と御多幸を祈念しております。

今年は、日加両国が外交関係を樹立して95年の節目の年です。1928年1月、日加両国が公使交換に合意。既に置かれていた在オタワ日本総領事館が昇格し、日本公使館として開設されたのです。同年7月20日の事です。総領事であった富井周が臨時代理公使となったのです。因みに、初代駐カナダ日本公使は、翌29年10月、第15代将軍徳川慶喜の孫にあたる徳川家正が着任しました。カナダ側が東京に公使館を開設したのも29年です。

そして、今年は、日加関係の節目に当たると同時に、日本がG7議長国の年です。厳しい国際情勢の中、カナダ側からもG7での日本のリーダーシップに強い期待が寄せられています。日加関係が一層の発展を遂げる年になりそうです。年頭に当たり、微力ながら最善を尽くす決意を新たにしたところです。

さて、今回の「オタワ便り」は、カナダの大西洋沿岸のローカル・パワーについてです。皆様ご承知のとおり、カナダは日本の27倍の国土面積を持ち、連邦制で各州に大きな権限が与えられています。各州には、それぞれにユニークな歴史と文化、社会があります。大使として任務を全うするためには、カナダの事を十全に理解したく、時間を見つけて出張しています。11月末に、プリンス・エドワード・アイランド(PEI)州ニュー・ブランズウィック(NB)州を公式訪問しました。州首相、総督、州議会議長との面談で、日本との友好親善について極めて有意義な意見交換が出来ました。そして、PEINB両州で工場等の視察の機会を得た訳ですが、実に大きな発見がありました。是非、皆様と共有したいと思います。

プリンス・エドワード・アイランド州の超ハイテク企業

PEIペリー副総督

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

プリンス・エドワード島と言えば、何と言っても「赤毛のアン」です。次に、ロブスターとオイスター。乳製品も美味しいです。人口17万人のカナダ最小の州で、要するに、農水産業と観光業の島、というイメージが定着しています。しかし、百聞は一見に如かず。PEIには、今やバイオ・サイエンス産業クラスターが形成されつつあります。大西洋に面した地理的特性を生かしつつ、州政府・PEI大学・企業の連携が深化しています。

昨年11月28日(月)、州都シャーロット・タウンにあるセキスイ・ダイアグノスティクス社を訪問しました。この会社の起源は1970年に遡ります。当時、PEI大学化学学部長であった地元出身のレッジス・ダフィー教授が1970年に起業したものです。当時の最先端化学に基づく有機化学反応の選択性に着目し、タンパク質の濃度測定に使われる特殊な染料を活用した検査薬の研究・開発を本格化させたのです。このスタートアップ企業は大きな潜在力を発揮し検査薬業界で注目され、米国のジェンザイム社に買収されます。そして2010年、積水化学が買収し子会社化し、社名をセキスイ・ダイアグノスティクス社(以下セキスイ)としました。セキスイは、年々業績を上げ工場も拡張を続けています。世界最先端のバイオ・テクノロジーで、糖尿病、感染症、免疫検査等の検査薬の開発・製造を行ない、新型コロナの検査薬も含めて、世界に出荷しています。

セキスイ化学の外観

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

セキスイは、PEIのバイオ分野の中核企業です。そして、PEIの地元社会では、セキスイと言えば誰もが知っている会社で、日本文化紹介イベントも積極的に行っている、と案内して頂いたジーン・ハワット副社長が誇らしげに語ってくれました。そして、極めて印象的だったのは、会社の入り口に掲げられた「改善 KAIZEN」と書かれたポスターです。日本企業のDNAが息づいて、PEIの新しい時代が切り拓らかれている様子に元気を頂戴しました。

セキスイ化学の「改善」

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

ニュー・ブランズウィック州〜世界最大のフライドポテト会社とサイバー・セキュリティー研究

ニュー・ブランズウィック州 ヒッグス首相

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

米国メーン州との国境近くにあるマッケイン・フード本社を訪れました。田園地帯に忽然と社屋と工場が現れました。1957年創業で、今や世界最大のフライドポテト会社で、世界シェア25%を誇ります。日本にも輸出しています。工場も視察させて頂きましたが、完全にオートメーメーション化されていて、2交代制で24時間稼働しています。ジャガイモの搬入から、洗浄、皮剥き、カット、味付け、フライ、梱包、冷凍等々19のプロセスがAIも導入してコンピューターで厳密に管理されています。工場内は極めて衛生的でした。米国でマッケインと言えば、大統領候補にもなったマッケイン上院議員ですが、カナダでマッケインと言えば、マッケイン・フードでカナダ人の誇りですが、それも納得です。

マッケイン・フード本社のポテトの19の工程を記したパネル

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

そして、州都フレデリクトンにあるニュー・ブランズウィック大学付属カナダ・サイバー・セキュリティ・センターを訪れました。早くからサイバー・セキュリティがビジネスになるとの発想を持ったカナダ屈指の大学で、2000年には実験施設を発足させています。現在のセンターは、カナダ国立研究機構の全面的支援を受け2017年に完成した最先端の研究施設です。デビッド・マギー副学長とアリ・ゴーバニ学部長に厳重に管理されている実験室等センター内を案内頂きました。サイバー・アタックの状況を世界地図上でオンタイムで表示する巨大スクリーン、様々なコンピューター、ディスプレイ、ハード・ディスク、データ格納施設等々に圧倒されました。

サイバー・セキュリティ・センター外観

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

このセンターには、世界27か国からポスドクの若い研究者達が参集し、研究・実験・開発を進めています。金融機関、通信、テック等々企業にとっては、サイバー・セキュリティは極めて重要な課題です。将来性もありますから、このセンターへの依頼・委嘱も多く、それがセンターの財政基盤を支えてもいます。そして、このセンター発のスタート・アップ企業も次々と誕生しています。最近では、QRadar (キュー・レイダー)いう企業がIBMに750百万ドルで買収されています。

最先端の革新的技術はその分野の専門家にしか理解できないが故に、実際のビジネスに結びつけるための仕組みが不可欠です。そんなエコ・システムが人口81万人のニュー・ブランズウィック州に生まれつつあります。カナダの潜在力の一端を見る思いがしました。

赤毛のアンと大阪万博

最後に、「赤毛のアン」です。今回、プリンス・エドワード島を訪れ、「赤毛のアン」が今も日加関係に及ぼす甚大な影響力に改めて感銘を受けました。実は、2025年の大阪万博に向けて、「赤毛のアン」の翻訳者である村岡花子女史の生涯をアンの物語に重ね合わせて描いた「アンのゆりかご」を舞台化しようという構想があります。PEIコンフェデレーション・アート・センターと「アンのゆりかご」」の著者で村岡花子女史の孫にあたる村岡恵理さんとの間で意見交換が進んでいます。1970年の大阪万博では、カナダ・パビリオンで「赤毛のアン」のミュージカルが上演され大変な好評で、カナダ・パビリオンは大人気でした。2024年は、「赤毛のアン」の作者、モンゴメリーの生誕150年に当たります。2025年に向け、私としても、カナダ外務省のローリー・ピーターズ大阪万博担当大使とも相談しています。この構想が動き出す事を期待しています。

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