山野内在カナダ大使

日加協会の皆様、日加関係を応援して下さっている皆様、こんにちは。

実は、2022-23年の冬は、リドー運河天然スケート・リンクが出来ない事になりました。史上初だそうです。結局、寒い日が続かず運河の氷が十分に厚くならなかったからです。オタワ市民も、観光客も大変にがっかりしています。正に、気候変動、地球温暖化をリアルに実感する日々です。

さて、2月は、日本の外交官にとって何処の国・地域・都市に駐在していようと、最も大切な公的行事であるナショナル・デイ・レセプションの時期です。2月23日の天皇誕生日を祝すレセプションが世界各地の日本の在外公館で行われる訳です。という事で、「オタワ便り」第11回は、天皇誕生日祝賀レセプションについてです。

天皇誕生日祝賀レセプション

令和5年の天皇誕生日祝賀レセプションは、ここオタワでは、カナダの議会日程、政治日程等を考慮して、2月13日の月曜日の夕刻に開催しました。会場は、オタワで最も格式のあるシャトー・ローリエ・ホテルです。新型コロナの感染爆発の後、初となる対面での大規模レセプションです。そのための入念な準備を、昨年秋から、進めて来ました。レセプションの骨格を固め、ホテル側と連携し詳細を調整していきます。本番の直前にはほぼ全館体制で準備を詰めました。最も重視したのは3点です。第1に、招待客、特にVIPの方々の来訪をきちんと確認しつつ、多くのお客様に実際に来て頂くこと。第2に、天皇陛下の誕生日を来客の皆さまと祝し、今日の日本とカナダの友好協力関係を実感出来る内容とすること。第3に、適切な案内・進行・運営と接客サービスです。

当日は、天気にも恵まれました。例年2月は厳寒の時期ですが、この日の気温は3℃でした。氷点下ではありません。天然スケート・リンクができなかったのは極めて残念ですが、1年で最も重要なレセプションにとっては幸運でした。

招待客

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

ワグナー最高裁長官クレティエン元首相ロタ下院議長ブレアー枢密院委員長ら閣僚6人、約60名の上院・下院議員、サトクリフ・オタワ市長エア参謀長、各国大使はじめ約600人のゲストに来訪を頂きました。

クレティエン元首相 背中はエア参謀長

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

ロタ下院議長

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

レセプションの最中にホテル社長が「これまで数々のレセプションが当ホテルの最大のボール・ルームで行われてきましたが、これだけ大規模のレセプションは極めて稀です。しかも、これだけ多数の閣僚、連邦議員が一同に会するのは初めてです。こんな素晴らしいレセプションを当ホテルで開催頂き本当に誇りに思います」と語ってくれました。

日本文化のショーウィンドウ

多くの方々に来て頂き高い評価を頂いた最大の要因は、水も漏らさぬ万全の準備、そして近年の日加関係の著しい発展にあると思います。特に、殆どの招待客は日本食・日本酒をはじめ日本文化に大きな関心を持っています。その意味で、天皇誕生日レセプションは、日本文化のショーウィンドウでもあります。随所に、今日の日本を実感して頂けるよう工夫しました。

ステージ横には、「いけばなインターナショナル」による立派なフラワー・アレンジメントを配置しました。

味と香りと健康の3拍子で人気の高い日本茶のコーナーも設け、和服姿の館員夫人から、当地で日本茶を扱う業者と連携して美味しいお茶を提供しました。我が公邸が誇る嶋泰宏シェフによる寿司コーナーの前には長蛇の列が出来ました。また、全農からお米のプロモーションという事で、新潟県産「こしひかり」と宮城県産「ひとめぼれ」を提供頂き、その美味しいブランド米で調理したカレー・ライスとちらし寿司は瞬く間に終わりました。ドリンク・コーナーには、日本酒を求めて人垣が出来ました。国税庁酒税課を通じて今後の日本酒輸出の目玉と期待されている超高級酒「百黙」等を提供頂きました。

嶋シェフ

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

また、新型コロナ後のインバウンド観光も視野に入れ、日本政府観光局(JNTO)による観光プロモーションのほか、今年のG7サミットの舞台となる広島、そして2025年の万博会場となる大阪からも参加頂き、郷土のPRをして頂きました。

そして、カナダでビジネス展開を図っている日本企業代表という事で、パナソニックとANAにブースを出して頂きました。

シャトー・ローリエは、ヨーロピアンな雰囲気に満ちていますが、この日は、束の間、日本が出現したようでした。

和太鼓と先住民ドラムの共演

そして、カナダと日本の友好親善を強く印象づけたいという思いから実現したのが、和太鼓と先住民ドラムの共演でした。オタワ日系協会、カナダ三菱商事から寛大な応援を頂きました。和太鼓を叩いて頂いたのは「音和太鼓」です。1989年にオタワ日系人会のメンバーが中心になって結成されました。当初はタイヤを叩いて練習したという逸話が残っています。様々な機会に積極的に参加されていて、日本文化をカナダに広めています。「オタワ便り」第4回で紹介した野球の「ジャパン・ナイト」でも和太鼓で球場を盛り上げて頂きました。先住民ドラムは「スピリット・ウルフ・シンガーズ」です。オンタリオ州のアルゴンキン族やオジ・クリーク族の先住民によるドラム・グループで、活動歴は25年に及びます。先祖伝来のドラムとシャウトを継承しつつ、独自の音楽解釈を加えています。

スピリット・ウルフ・シンガーズ

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

レセプションは午後5時45分開場。招待客が続々と詰めかけ、徐々にVIPが揃い、会場は熱気と喧騒に包まれていきました。午後6時20分、「音和太鼓」と「スピリット・ウルフ・シンガーズ」の共演が始まります。太鼓の音は心臓の鼓動とシンクロし、腹に響きます。一瞬のうちに喧騒は静寂に変わり、太鼓のリズムが会場を支配します。言葉でうまく言い表せない感情が会場の皆に胸に去来したのだと思います。和太鼓と先住民ドラムは、一見すると、衣装、奏法等は全く異なります。が、深いところで繋がっているのが分かります。人間が二本足歩行を始めた太古の時代、言葉を獲得する遥か前から、打楽器は人間とともにあって喜怒哀楽を表して来たのですから。10分余の演奏が終わると、万雷の拍手と歓声が続きました。太鼓の共演が象徴する日加間の友情への熱い祝福で天皇誕生日祝賀レセプションが始まりました。

太鼓共演

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

首都オタワでは、様々な式典・行事が日々行われます。その際に、先住民との関係では、総督、首相、議長、市長等がスピーチする時、必ず言及するフレーズがあります。「今日、我々が集っているこの場所は何者にも支配されることのなかった先住民の土地である事を認識し、謝意を述べる」というものです。カナダが国家として先住民と真剣に和解を目指している証左です。其処で、天皇誕生日レセプションの冒頭で、「音和太鼓」と共に「スピリット・ウルフ・シンガーズ」に演奏してもらう事で、駐カナダ日本大使としての先住民の伝統への心からの敬意を表したいと思いました。彼らの奏でるドラムとシャウトは、カナダの大地の声です。シンプルな律動が和太鼓と共鳴し合う姿は、力強いメッセージとなったと思っています。

山野内駐カナダ大使ご挨拶

(ご提供:山野内駐カナダ大使)

結語

天皇誕生日祝賀レセプションの招待客から多くの賞賛の言葉を頂きました。実際には来てない人も、街の話題として評判を聞いたと述べていました。オタワは首都ですから、次々と凄いスピードで新しい話題が出ては消えていきます。が、当地駐在の或る大使は「今年の成功を如何にして超えるのか来年のレセプションが楽しみだ」と語りかけて来ました。鬼が笑うでしょうが、考え始めねばと思っています。

Ottawa / オタワ

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