Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第1回留学生 (J. M.)

「クイーンズ大学での創作体験」

はじめに、高円宮妃殿下、カナダ大使館、日加協会の皆様を始め、沢山の方々の暖かいご厚志によりまして、名誉ある高円宮様記念奨学生第一回生として2004 / 05年の学年度をクイーンズ大学で、充実した留学期間を送らせていただきました事に対しまして、心よりお礼を申し上げます。

私はクイーンズ大学では、English Language and Literature Department, Faculty of Arts and Scienceに在籍させていただきました。Engineering、Commerceと並んでクイーンズ大学で定評のあるこのDepartmentでは、質量共に厳しい課題に追われる毎日でしたが、そこでは「児童文学」、「現代散文小説」などのコースを受講、英米、カナダの文学を学ぶうえで、これ以上ない機会を与えていただきました。

その中でも私がもっとも楽しく取組めたのは、冬学期に受講したクリエィティブライティングのコース(CW 295)でした。このコースには奨学金の選考に合格後、大学から送られてきたシラバスを見た時から魅力を感じておりました。なぜなら、私自身、ジャンルを問わず、物を書くことに一貫して興味を抱いてきましたし、また、日本では大学レベルで第一線の作家から創作術を学ぶ機会が少なかったからです。

当コースはオンライン上のワークショップスタイルで行われましたが、コースの定員はわずか30名で、過去に多くのライターを輩出したこのコースを受講するためには、開講前に講師のCarolyn Smart先生に短編小説か詩を一遍提出し、選抜を通る事が前提でした。

Ms. Smartはプロの詩人として25年にも渡って活躍されている、現在、カナダで最も成功した詩人の一人です。先生は日本の文学に対する造詣も深く、最近いただいたメールでは、村上春樹作の「海辺のカフカ(英題: “Kafka on the Shore”)」を読了、余韻に浸っている所だと仰っていました。

また、私が宮様記念奨学生である事を知られた先生が、高円宮殿下と妃殿下が1992年にクイーンズ大学をご訪問された際に受けた感動について教えてくださった事も印象深い思い出のひとつです。

English Departmentの膨大な課題については前段でも触れましたが、とりわけ、このコースはタフでした。私は詩ではなく、散文を課題として選びましたので、2週間に一度(計5本)、1,500から2,000語(A4で5~10枚)の短編小説を提出し、それ以外にクラスのホームページにも同程度の長さの小説を2本投稿しました。12週間の一学期の間に合計で7本の短編小説を完成させた上に、このコースは生徒の客観的な批評眼を育成することも目的としていますので、劇評や、カナダの新人作家による作品の評論にも取組みました。

テキストブックはPearson Longman社の“What If?” Exercises and Stories for Fiction Writersを用い、課題を手がける際はテキストに従い、一作毎に「登場人物の描き分け」、「子供の視点から描く」、「会話で筋を運ぶ」などのテーマを与えられました。興味深かったのは、登場人物の造形について学ぶ章で、「その人物の宗教は?」、「食生活上の主義の有無?」、「タトゥーをしているか?」などという、日本ではそれほど意識する事のないような項目が登場人物を形作るうえでの重要な要素として並べられている点で、そんな所からも、多様な北米の文化のありようを感じたりいたしました。

外国語として英語を学び、語彙や微妙な言葉のニュアンスに対する感覚では英語を母語とするクラスメイトたちに比べて遥かに劣る私が、クリエィティブライティングという難関に挑むうえで心がけたのは、シンプルで明晰な文を書く事でした。ストーリー、人物像の骨格をしっかりと打ち出し、行間に情感がにじみ出るような文章を、おこがましくも目指して実作に取組みました。

作品7本のうちの5本は、私が以前、野球場で客席案内係のアルバイトをした際に経験したことを題材に連作として書きましたが、題材選びも含め、日本人留学生としての視点、切口を大切にしながら同時に、日本、東洋に対するステレオタイプ的な捉え方には迎合しないようにも、注意を払いました。

先生からの懇切な講評だけでなく、文学賞受賞経験があったり、また、国籍、年齢ともに多彩なクラスメートたちから作品について忌憚のない意見を貰った事は刺激になりましたが、同時に、キングストンの町に今も文学が生き生きと根づいている事をとても新鮮に感じました。

週末にはMs. Smartを初め、キングストン、あるいはモントリオールから集った作家たちが大学内、あるいはプリンセス通りのGallery Caféで朗読会、時には即興詩のコンテストを開き、私たちは様々な形で文学を楽しむことが出来ました。

このように、クイーンズ大学では素晴らしい教授の方々、仲間に恵まれ、人間としての視野を広げる為の、これ以上ない貴重な時間を過させていただきました。

改めて皆様に感謝申し上げます。今後とも、クイーンズ大学で学ばせていただいた事を生かし、精進を続けるつもりでございますので、何卒ご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。