Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第10回留学生 (Y.D.)

カナダでの実りある一年間

高円宮記念クィーンズ大学留学奨学金受賞生としてカナダオンタリオ州キングストンにあるクイーンズ大学で過ごした8か月とその後2か月間ワーキングホリデービザでカナダで就労した体験について書かせていただきます。

まずは、学生とのふれあいについて書きたいと思います。日本で一生懸命勉強したはずの英語もカナダについた当初は聞き取れず苦労することが多く、数か月して講義で教授が話す丁寧な英語は理解できるようになったものの、友人同士の早い会話にはまだまだついていけず悔しい思いをしていました。最初は学生寮やキリスト教聖書勉強会で知り合ったアジア、アフリカからの留学生と話していましたが、せっかくカナダに来たのだからカナダ人の友人を作りたいと思い、日本語を勉強しているカナダの学生と友達になったり、音楽クラブの活動に参加したりしました。キリスト教聖書勉強会で知り合ったカナダ人の友人の一人はクリスマス休暇にオタワの実家に招いてくれ、伝統的な七面鳥料理やプレゼントを贈りあう風習を見ることができました。

友人家族との写真

ゲームをしたり、映画を見たりと楽しい時間を過ごし、そしてなによりも友人家族の優しさのおかげで寒いカナダの冬をあたたかく迎えることができました。また、冬学期はカナダ人学生とロックバンドを結成し、学校のパブでドラマーとして演奏しました。キャンパス内にお酒の飲めるパブやクラブがあるのも驚きでしたし、学校のパブで演奏したことはとてもいい思い出になりました。音楽は国境を越えるとよく言うけれど本当にそうだなと実感しました。

パブで演奏中の写真

大学の中で驚いたのは人種の多様さと女子生徒の多さです。カナダは多民族国家というのは頭ではわかっていたものの実際にアジア、アフリカ、中東諸国からの移民や留学生が大変多く、びっくりしました。そして人種に関係なく学生どうしが交流しているというのが当たり前なのですが、日本ではあまり見られない光景だったので印象に残りました。また、女子生徒が半数以上を占めていたのも驚きでした。私の通っている東京大学は女子率が20%で、どうしてそうなっているのだろうと疑問を持ち、性差別、人種差別は絶対にしてはいけないというカナダのモラルに対し、日本ではまだそういう意識が希薄なのではないかと感じました。私の取った授業ですが、秋学期は社会心理学、ジェンダー学、プログラミング、冬学期は性格心理学、認知科学、社会学を取りました。日本の大学では理系を選択していましたが、人文系の学問を自国とは別の視点から学びたいという理由で選びました。中でもジェンダー学は北アメリカのフェミニズムの歴史がわからず最初は苦労しましたが、平等が進んでいるとされるカナダの社会でも女性の国会議員の数が少ないなど問題を抱えているということがわかり、その知識を持って日本社会について考えると、日本におけるジェンダーの平等達成への課題はたくさんあると思いました。また、社会学では先住民の問題について勉強し、アメリカ大陸諸国が移民によって建てられた歴史やそれに対する先住民の対応、そしてもともと自分の土地でなかった場所に現在住んでいる私たち(カナダ人たち)はどうすべきなのかということについて学び考えました。移民の国ならではの講義で、大変興味深かったです。カナダの学生と日本の学生の違いについて気づいたことは、カナダでは授業中にパソコンを開いてノートを取る生徒が多かったということと、積極的に教授に質問する生徒が多かったことです。もっと活発に議論するのかと思いましたが、それほどでもなく、熱心に授業を聞き質問があれば積極的に手を挙げるという雰囲気でした。よく海外の大学生は日本の大学生より勉強すると言いますが、クイーンズでは一学期にとる講義数が少なく、勉強量はあまり多くないように感じ、日本の学生も負けてないぞと思いました。

留学中にカナダ中を旅行したのもいい思い出に残っています。自然が豊かなカナダの風景を見ると、人間が自然を切り開いてまちをつくったという当たり前ですが忘れがちなことを思い出しました。キングストンから見えるオンタリオ湖はもちろん、雄大なカナディアンロッキーやニューファンドランド島にある海辺の町セントジョンズなど美しいところがたくさんありました。

留学は4月まででしたが、カナダが気に入った私はワーキングホリデイビザで数か月働くことにしました。オンタリオ州パースにあるEaster Seals Ontario Camp Merrywoodという障がい児のためのキャンプ場で住み込みで働きました。朝は6時半に起き、食事、シャワーなど日常生活の手伝いに加え、カヌー、ヨット、釣り、音楽、演劇、美術などのアクティビティに子供たちと一緒に参加し、仕事を終えるのは夜10を過ぎてからという非常にハードな仕事でしたが得られるものも多かったです。大学にいると同じ年代の人としか話しませんでしたが、上司、子供、保護者などいろいろな年代、立場の人と話すことで英語でのコミュニケーション能力が高まったと思います。また、あまり知識のなかった教育や障がいについたくさんのことを考えさせられました。一番の思い出は子供たちに日本の伝統文化である折り紙を教えたことで、日本に興味を持って質問してくれる子供たちもいて、とてもうれしかったです。

当初の目標であった英語の上達が達成できたのはもちろんですが、留学後、とくに自分自身が変わったなというところは、さまざまな文化背景を持った人々との交流、障がい児キャンプ場での就労を通して人種、身体の自由不自由に偏見を持たずに人と接するようになれたこと(もとから偏見を持っていたつもりはなかったけれども、留学前はなんとなく私には関係ないとかよくわからないから怖いとかそういう気持がありました)、そして、授業を通してジェンダー学と先住民の問題に興味を持ち、他国の目を通して歴史や報道を見られるようになったことです。また、日本について見直したところもあります。例えば食文化。ファストフードが多いカナダの食文化を見て、日本食は健康というだけでなく、日本の食べ物を大事にするこころを再認識しました。また、日本語を勉強するカナダ人学生との交流を通じて日本文化を違った視点から見ることができました。そして折り紙や料理を通してカナダ人、他国からの留学生に少しでも日本の文化を紹介できたのもよかったです。

最後に、このようなすばらしい体験を可能にしてくださった大使館、日加協会、奨学金協賛企業の方々、支えてくれた友達、家族への感謝の言葉を持って締めくくりたいと思います。ありがとうございました。