Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第11回留学生 (Y.S.)

クイーンズ大学での1年

クイーンズ大学での1年は、今までの人生でもっとも印象に残る1年です。学業、生活、課外活動の3つの観点から、留学生活をお伝えします。

1点目の学業においては、政治学、歴史学、国際開発学を履修することで、将来の目標に向けて学ぶことができました。留学前は、平和構築の分野で働くことが目標でした。祖父母から戦争の体験を聞いて以来平和構築に関心があり、大学1年次に履修した平和構築学の授業を機に、紛争問題に関心を持ちました。21世紀では国家間の争いから起きる戦争よりも民族間の争いから起きる紛争が増加しており、紛争が各地の平和構築を妨げていると学んだからです。したがって、留学の目標は、多民族国家であるカナダで民族共存の仕組みを知り、民族間の紛争解決のためには何が必要か学ぶことでした。クイーンズ大学では、比較政治学にて各地域の紛争の成り立ちや、各国政府による紛争解決に向けた取り組みを学びました。カナダで民族が共存できる理由は、カナダ政府が同化政策ではなく多文化主義政策を推進して国民の民族性を重んじているためであると考え、カナダ政治の授業も履修しました。授業において多文化主義政策は重視されておらず、移民を受け入れ続けてきたカナダ人にとって多文化主義は当たり前でわざわざ学ぶ必要はないとの印象を受けました。他にも、ユダヤ人とアラブ人の対立の歴史や国際開発学の授業も履修しました。クイーンズ大学では、学生の知識量と勉強量の多さに毎日刺激を受けていました。クイーンズ大学で初めて書いた論文の成績が人生初のCであったときのことは忘れられない思い出ですが、挽回するために1日10時間以上図書館で勉強した結果、2回目の論文ではA+を取ることができました。しかし、友人からは図書館の住人と呼ばれるようになりました。授業では、友人ができずに悩みましたが、きっかけを探して話しかけたり話しかけられるうちに、ケニア人やオランダ人、カナダ人の友人ができ、共に勉強したり出かけたりするほど親しくなることができました。課題で忙しい毎日でしたが、留学生向けの新歓イベントをきっかけに出会った中国人とインド人の友人も図書館の住人であったため、図書館で課題量に文句を言いながら共に過ごした時間はかけがえのない思い出です。

2点目の生活においては、寮生活を通じてカナダ文化を経験することで、新たな環境の中で教訓を得ることができました。寮では、友達作りのために自ら話しかけるよう努めましたが、カナダ人の話す英語は速くて聞き直さないと理解できず、打ち解けられませんでした。個人の感覚では、輪の中で発言していない人には会話に参加できるよう話題を振りますが、カナダ人の感覚では、発言していない人は会話に興味がないと見なします。非英語圏出身の学生でも英語を話せることは当然であり、日本人だから英語が下手でも仕方ないとの考えは通用しませんでした。国内のインターナショナルスクール出身で英語力には自信があったにも関わらず、カナダ人との対話において英語が支障となっていることに、英語に対する自信だけでなく英語で話しかける度胸も損ないました。大人数で話していると、話が途切れないため発言するタイミングも失いがちでした。人の話を遮るのは失礼であると考えていたのですが、カナダでは人の話を遮って発言することは普通であると知り、日本とカナダの文化の違いを実感しました。寮のパーティー文化にも馴染めず、最初の1週間は部屋で泣いていました。しかし、共同キッチンで学生スタッフや日本に興味のある学生と話したり、同じ階に住む中国人の学生と親しくなったりする中で、居場所を見つけることができました。また、寮生活を通じて、環境のせいにしないこと、できることをやること、相手に関心を持つことの大切さを学びました。寮で馴染めないのは周りが全員1年生で留学生の境遇を理解してくれないせいだ、と周りの環境を責めることがありましたが、環境のせいにしても何も変わらないと気づき、自身の向き合い方を変えることで状況を変えようとすることが大切であると考えるようになりました。したがって、寮ですれ違う人に挨拶したりキッチンにいる人に話しかけたりしました。一方、寮でのパーティー文化に適応できずに落ち込んだときは、合わない環境に無理して適応しようとする必要はないと考えるようになり、「できることをやればいい」との祖父の教えの大切さを実感しました。また、相手に関心を持つことの大切さも学びました。当時は、いかに周りに興味を持ってもらえるかばかり気にしていて、周りを知ろうとする姿勢が欠けていました。日本人を代表して、カナダ人に日本の魅力を伝えなくてはとの使命感、および唯一の日本人だから興味を示してくれるであろうとの期待をもって接していました。しかし、郷に入っては郷に従えで、日本文化を知ってもらいたければ、まずカナダ文化を受け入れようとすることが大切であると共に、国籍は単なる肩書きであると気づき、日本人というより素の自分として人と関わるよう意識し始めました。

3点目の課外活動においては、クイーンズ大学国際センター(QUIC)および教育系非営利団体Room to Readのクイーンズ大学支部に携わることで、友人と自信を得ました。QUICでは、カナダを始め、アジアや中東から来た学生とチームになり、国際イベントの企画を行なう中で親しくなりました。唯一の日本人スタッフとして日本文化のイベントも担当しました。擬声語のゲームとして、カエルの鳴き声や雨音を日本語でどう表すかを当てる選択クイズを行なったときは、参加者がチームとなって「ゲロゲロ」「キロキロ」「キラキラ」の中からカエルの鳴き声を当てようと話し合いながら楽しんでいる様子を見て嬉しくなると共に、日本語の奥深さを再認識しました。QUICを通じてリビア、香港、イタリア、バングラデシュの学生を始め、多民族国家ならではの出会いがあり、一緒にホームパーティーを行ないました。日本に夏期留学するアゼルバイジャンの学生とも出会い、渋谷のハチ公前で再会を果たしました。来月には、来日するタイの友人とも再会する予定であり、QUICで出会った友人とは生涯の付き合いができる仲になりました。Room to Readのクイーンズ大学支部では、企画統括を担当し、アジアとアフリカの子どもの教育支援のための募金活動を行ないました。クイーンズ大学支部は、毎年テントを張って1週間寝泊まりする募金イベントLive-in for Literacyの発祥の地で、テントに住むメンバーが団体から毎年2人選出されます。会長からやってみないかと誘われ、1月の極寒の中、図書館の入り口付近にテントを張って1週間募金イベントを行ないました。学生に親しみを持ってもらえるよう、欧米で大ヒットしたサバイバル映画ハンガー・ゲームをイベントのテーマとし、映画の要素を取り入れた焼き菓子販売や写真撮影コーナーを催しました。また、募金額に応じてどの学部が1番寛大であるかを競う学部対抗キャンペーンを提案しました。サバイバル映画にちなんで、「あの戦いが大学にやってくる」との文句のもと、生き残りをかけた学部対抗戦を開催したところ、2000ドルを集めることに貢献しました。イベント中、テントに立ち寄ってくれた学生と話したり、通りすがりの学生に話しかけたりすることで、大学と地域全体の人々に参加してもらうと共に、留学当初に失った英語力に対する自信と度胸を取り戻すこともできました。イベント中、寮に戻ることは禁止で、シャワー以外食事も勉強もテントで行ないました。夜になると寒さと疲労が伴いましたが、もう1人のキャンパーの女の子と励まし合うことで乗り越え、イベントは大盛況に終わりました。

クイーンズ大学での1年は、一生忘れません。試練に直面する中、できることを実行していくことで、人生における教訓、友人、そして自信を得ることができました。貴重な機会を与えてくださった奨学金関係者のみなさまには、心より感謝しております。留学で学んだことを今後の人生に活かし、日本、カナダ、および国際社会に寄与していけるよう精進いたします。