Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第12回留学生 (W.O.)

クイーンズ大学での1年

クイーンズ大学での1年間は生涯忘れることができないような苦労と喜びが織り交ざった、貴重な1年間でした。学業、生活、課外活動の3つの観点から、留学生活をお伝えさせていただきます。

【学業】

学業は大変充実しておりました。クイーンズ大学には多様な授業が開講されており、数々の素晴らしい教授のご指導のもと、大学4年間のうち最も濃く、深い学びを得ることができました。私は日本で法学部の政治学科に所属し、国際政治を学んできたため、カナダでも引き続き国際政治を中心に学びました。日本の大学と違い、少ない科目数を掘り下げて勉強するため、一つ一つの事柄を深く理解することができました。例えば、国際政治においてリアリズム・リベラリズム・コンストラクティビズムという国際関係を理解する上での基本の理論があります。日本の大学でこれらを学んだ時は、90分の授業1回のうちの数十分で終えました。一方、カナダでは1つ1つの理論が1週間分のカリキュラムとなり、講義+学術論文3本のリーディング+少人数のディスカッションを通して学ぶという充実した内容となっていました。学術論文は知らない単語ばかりでしたが、辞書を引き、印刷した論文が黒くなるまで書き込みをして勉強しました。そうして一生懸命読んだ論文について授業でディスカッションを繰り広げ、授業内容の理解度が高まるのを実感することができたとき、学び・理解し・吸収する喜びを感じました。また、意外にもこういった場面で、慶應で学んだ政治に関する幅広い知識をディスカッションで活かすことができた場面もあり、日本とカナダ両方の教育がそれぞれ意義あるものだと実感しました。

専攻科目である国際政治以外にも様々な授業を受けました。中でもジェンダー論とビジネススクールの異文化間ビジネス論の授業が大変刺激的でした。ジェンダー論である「Introduction to Women, Gender and Politics」という講座では、フェミニズムの歴史から現代で女性が政治家になる上での様々な障害、メディアの影響力、そして女性が参政する意義などを世界の様々なケースを見て学びました。

私は留学前から女性の社会進出に興味があり、課外活動としてそれをテーマとした英語弁論なども行っていたため、とても考えさせられる授業でした。カナダは人権を重んじる国で、sexismやracismを強く嫌う国民が多く、カナダだからこそ受けることができた授業だと感じました。フェミニズムを全面に押し出しているこのような授業でも、男子生徒が半分近くいることに驚きました。日本では「フェミニズム」という言葉自体にアレルギーがある人が大半かと思います。しかし、カナダには男女平等社会を実現するべきだという考えを持つ学生が多くおり、男性でも堂々と「自分はフェミニストだ」と言う人がいることは本当に素敵だなと思いました。この授業で学んだことは日本に帰国した今もとても役立っており、私も今後日本のより男女平等な社会の実現に向けて何か貢献できたらと思っております。

クイーンズ大学にはSmith School of Businessという学部があり、そこで私は「Managing Across Cultures」という異文化マネジメントの授業を取りました。この授業は受講生の半分以上が交換留学生であるため、ヨーロッパ、アジア、南米など様々な国からの学生がいました。授業では各国の仕事のカルチャーやコミュニケーションスタイルの違いなどが扱われ、その都度教授が学生に自国での体験を聞いて回ります。毎回の授業がまるで国際会議のようで、各国の学生から生の声を聞くことができたことが非常に面白かったです。また、この講座で学んだことは、自分がその時カナダで体験していたカルチャーショックそのものでした。例えば、ある国でのトップマネジメントが他国の支社長に就任したところ、全く通用せずに挫折してしまったというようなケーススタディがありました。リアルタイムに経験していたことを学問的に学ぶことができたことで、気づきと閃きが多くあり、それをどう乗り越えていくのかを考えることができました。将来国際ビジネスに関わる際の予備知識としてとても役に立つ、大変有意義な授業となりました。

このように、クイーンズ大学では専攻科目を深めて学ぶことができ、また、カナダにいたからこそ学べたような学問を身に付けることができました。一つ一つの授業が味わい深く、心から留学してよかったと思えるものばかりでした。

【生活】

生活面では苦しい経験も楽しい経験もしました。私は小学生時代をアメリカとインドネシアで過ごした帰国子女です。そのため、語学面ではあまり心配はありませんでしたが、立ちはだかる文化の壁は想像を遥かに超えて高く、大きなものでした。

私の住んでいた寮であるSmith HouseはInternational Students用ではなかったので、多くの学生は白人のカナダ人でした。ほとんどの人がフレンドリーに接してくれましたが、言葉は通じても話題、テンポ、面白いと思うことなどが違いました。それでも積極的に輪に入ろうと思い、パーティーやクラブに誘われては行ってみたものの、その文化に馴染めず、戸惑いました。このようなことが続いたことで自信を失い、最初の2ヶ月は部屋で泣き、塞ぎ込んでしまうこともありました。

しかし、ある時、いつものように誘われたパーティーに行こうと思っていたものの、きっぱりと行くのをやめたことがありました。その時、ものすごく気持ちが楽になりました。そうして「行って無理をするのではなく、自分の居心地の良いと感じるところにいればいい」と思えるようになってから付き合う人も変わってきました。カナダの現地生と交流するのが留学だけではないと思い、他の留学生のコミュニティに顔を出したり、日本に興味のある学生が集まるJapanese Relations at Queen's (JRQ)に参加してみたりと、活動の幅を広げたことで新しい出会いがたくさんありました。

その中で、ドイツ人留学生の集団と仲良くなりました。彼女らはコミュニケーションの取り方が親しみやすく、本音で話すことができるように感じました。それからは多くの時間を一緒に過ごすようになり、11月には5人でニューヨークまで車でドライブをし、2月にはキューバにその中の1人と2人旅をしたことが忘れられない良い思い出です。ドイツ人は旅の価値観が日本人と違い、観光地をツアーで回るのではなく、「その土地のありのままの姿を自分の足で回って見たい」という価値観を持っていました。その旅の価値観が非常に面白く、自分たちでゼロから調べて巡る旅ではその土地を深く知ることができ、今まで以上に旅を楽しむことができました。

このように、自分が想像していた以上に留学先で友達を作ることは難しく、苦しい思いをたくさんしましたが、視野を広く持ち、居心地の良い場所を探し続けることの大切さを学びました。

【課外活動】

クイーンズは課外活動が盛んな大学で、多くのクラブがありました。私は色々なことに挑戦しようと思い、学内リーグでアルティメットフリスビーやドッジボールに取り組んだり、スカッシュクラブに参加したりしておりました。最も積極的に参加したのはJapanese Relations at Queen’s (JRQ)という日本文化クラブとOutdoors Clubというアウトドアスポーツに取り組むクラブでした。JRQでは後期から常任メンバーとして活動の企画・運営に携わりました。お寿司やカレー、たこ焼きなど日本の料理を振る舞うイベントを主に主催し、クイーンズの学生に日本文化を広める活動に取り組みました。そのような活動の中で、日本に興味のある学生の多くに出会うことができ、カナダの田舎町でも日本が好きと言ってくれる学生がいることをとても嬉しく思いました。

また、Outdoors Clubでは週末に企画されるイベントに参加しておりました。中でも印象深いのはWinter Wonderlandという名前の、1泊2日で山小屋に泊まり、クロスカントリースキーやスノーシューズ、アイススケートやホッケーなどのウィンタースポーツを楽しむ企画でした。携帯電話の電波も入らないような山奥で、朝から晩まで雪の中で活動し、夜にはボードゲームで遊ぶという東京ではなかなか体験することができない企画でした。しかし、電波がない環境が思いの外良く、一緒にいる人たちと目の前にあることに無我夢中になるという経験が新鮮でとても楽しかったです。現代社会ではなかなか経験できないスマホフリーな環境で、いかにもカナダらしいウィンタースポーツを楽しむことができた良い思い出となりました。

カナダでの1年間は今振り返ってもいろいろな感情がこみ上げます。友達ができるまでの苦しさ、学業で何かを深く学ぶ喜び、生まれも育ちも違う仲間と旅をして感じる感動など、端的にはまとめがたい様々な経験をしました。しかし、全てを通じて言えることは、これらは全て何にも変えがたい貴重な経験で、今後の人生の大きな糧になると確信しているということです。帰国してから周りの友人達からは「強くなったね」と言われます。カナダへ渡り、自分のことを知っていて応援してくれる人が周りに1人もいない環境で、自分の無力さ、小ささを実感しました。しかし、だからこそ友人や家族など、周りにいてくれる人たちのありがたみを噛み締め、感謝することができるようになりました。また、自分の力不足を実感したからこそ、もっと成長し、人間的魅力を磨き、世界に挑戦したいという夢を膨らませることができました。

このような貴重な機会を与えてくださった奨学金関係者のみなさまには、心より感謝申し上げます。留学で学んだことを今後の人生に活かし、日本、カナダ、および国際社会に寄与していけるよう精進いたします。