Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第15回留学生① (C.W.)

クイーンズ大学と私

はじめに、この場をお借りして奨学金関係者の皆様方に心より感謝申し上げます。クィーンズ大学では大変充実した留学生活を送ることができました。クィーンズ大学に行く前の1年間はプリンス・エドワード島大学に交換留学していた私ですが、州も規模も違う大学でまた新たな経験ができました。こちらの報告書では授業と課外活動の主に2つについてお伝えしたいと思います。

授業

私はクィーンズでは演劇のコースを主に取りました。カナダの授業スタイルにはプリンス・エドワード島の1年間で慣れていたのでそこまで戸惑いはありませんでした。日本に比べて予習や課題が多いですが、やはり自分の一番興味のあることなのでとても楽しかったです。演劇専攻と聞くと演技の授業をイメージする方が多いと思いますが、クィーンズでは演技だけでなく作品の考察やデザイン、制作の仕事についても勉強することができます。私は通年で演劇入門の授業を取りながら、秋学期は脚本とスピーチ、舞台裏方入門のクラスを取りました。演劇入門のクラスでは講義とラボのクラスがあり、講義では不信の一時的停止などの理論について学びました。演技についてはプリンス・エドワード島大学で少し学んでいたのですが、理論など観劇する際など私たちが普段自然にしている事について学術的に学ぶのは興味深かったです。ラボのクラスは20人程で5分間の劇を作るなどの課題がありました。1年生がほとんどだったので、カナダ人と留学生関係なく仲良くなれたクラスだと思います。脚本の授業はやはり自分の母語でない言語で何十ページも書くのは大変でした。私の他に留学生は1人しかいなかったので、その子と助け合いながらなんとか乗り切りました。スピーチの授業は演劇のコースで演技担当の教授が教えてくださったのですが、ほとんどの生徒がビジネススクールの生徒だったので、他の演劇のコースとは雰囲気が違って面白かったです。プリンス・エドワード島出身の生徒と仲良くなれました。裏方入門の授業では、セットをCADでデザインしたり、木で小箱を作ったり、ステージマネジャー用の台本作りをしました。どれも時間がかかって締め切りに追われることもありましたが、演劇の様々な仕事を理解できました。

冬学期は演技の授業とデザインの授業、舞台裏方入門の続きの授業を取りました。演技の授業ではカナダ最大の演劇祭であるStratford Festivalの舞台に出演している教授が教えてくれました。主に体の使い方を学び、4人1組でワンシーンを演じる課題があって楽しかったです。デザインの授業では、始めに色や素材について学んでから、演劇作品を読み衣装のデザイン画とセットの模型を作りました。時間の制約がある中で自分の納得するクオリティの作品を作るのは難しかったですが、充実していた授業でした。舞台裏方入門の続きのコースでは照明と音響のデザインと衣装制作としてボクサーパンツを作りました。照明と音響のデザインはパソコンで私の苦手なエクセルやCADのソフトウェアを使って作成したので大変でした。ボクサーパンツ作りは授業を体調不良で休んだ為、一日で完成させましたが、思ったよりも良いものが出来て良かったです。日本でもプリンス・エドワード島大学でも演技の授業を少し取っただけでしたが、この1年間で演劇についての様々な知識が身につきました。

演劇・音楽学科定期公演(Dan School Major Shows)

クィーンズ大学では教養学部(Faculty of Arts and Science)の演劇学科と音楽学科の2つを総称してDan School of Drama and Musicと呼んでいます。奨学生に選ばれたらクィーンズで経験したい事の1つがこの定期公演でした。クィーンズ大学にはTheatre Societyが大小合わせると20近くありますが、この定期公演は学部の教授の監督の下、学部から経費が出るため生徒運営のSocietyより本格的な作品が多いです。クィーンズに来る前年の定期公演の予告映像を見てとても感銘を受けたのでぜひ参加したいとずっと思っていました。私は今まで公演に参加した経験が人生で一度も無く不安でしたが、9月の初めにオーディションがあったのであまり期待はせず受けてみたところ、役を頂くことができました。秋学期はアリストパネスの喜劇「鳥」を現代風にアレンジしたものでした。オーディションでは自分で用意したセリフの他に歌も準備し、さらにはその場で劇の台本を渡されて読む審査もあり、英語が母語ではない私にとって難しかったので手応えはなかったのですが、キャストに選んでもらえて嬉しかったです。稽古は基本的に平日の週4回で課題との両立が大変なこともありましたが無事にこなしました。公演は全11回あり、毎回楽しかったです。

当初の予定では冬学期は裏方の仕事をしようと思っていたのですが、秋学期の公演であまり出番が無かったこともあり、もう一度定期公演のオーディションを受けました。冬学期は”The Wolves”というオフブロードウェイでも上演された高校女子サッカー部の劇でした。運動が苦手な私でしたが、なんとか二次審査のサッカーも乗り越えキャストに選んでもらうことができました。しかも私はゴールキーパーの役で、ひたすらトレーニングをするソロシーンがあったので、自主的にジムに通いました。また稽古期間が通常の2ヶ月半より短い1ヶ月だったので、平日放課後夜10時半まで、日曜日は朝から夜まで稽古がありました。監督がNetflixの赤毛のアン等に出演されている大学外部の方だったので、演出の仕方も秋学期とは違い新鮮でした。キャストは女子10人だけだったので、とても仲良くなり今でも当時の話をするぐらいです。この公演からSNSを使った広報活動も活発になり私も一日インスタグラムのアカウントを管理する担当になったり、プロモーションビデオの撮影もあったりと新しい経験ができました。課題との両立やサッカーの技術など大変なことはたくさんありましたが、とても貴重な経験になりました。普通に授業を受けているだけでは正直友人を作るのは難しいですが、公演に参加することで友達も増えたり、クラスでも話したことのなかった人から「ゴールキーパー良かったよ」と声を掛けてもらえたりと大変貴重な経験になりました。

その他

私は寮に住んでいて、最初は寮の友達と夕食に出掛けたりしていたのですが、稽古が忙しくなるとスケジュールが合わなくなり、あまり遊ばなくなりました。旅行も、プリンス・エドワード島に交換留学していた年にトロントやモントリオール、ニューヨークなど主要な観光地にすでに行っていたこともあり、各学期にあるReading Week等の休暇は基本的にゆっくりしたり、溜まった課題をしたり時間に充てていました。また公演の無い時期は他のTheatre Societyの公演を観に行ったり、同じく奨学生の小林さんと出掛けたりしました。冬休みはプリンス・エドワード島の友人に会いにも行きました。ほとんど旅行に行かなかった私ですが、帰国直前にトロント観光とカナダ最大の演劇祭Stratford Festivalに行きました。トロントでは”Come From Away”というアメリカ同時多発テロの際に一時的に7000人を受け入れたカナダ・ニューファンドランド州ガンダーという街のミュージカルを観ました。10人以下の役者でほとんど衣装替えも無く、アクセントだけで世界各地からの飛行機に乗客とガンダーの住人を完全に演じ分けていて、感銘を受けました。悲しい事件をテーマに扱った作品ですが、カナダ人の優しさを感じることができる心温まる作品でした。トロントからバスで2時間程のストラットフォードでは日本でも上演されたBilly Elliotを観劇しました。日本版とは衣装やセットも違い新鮮でした。以前から観たいと思っていた作品なのでとても感動しました。

現在

クィーンズ大学でさらに演劇を学びたいと思い編入をしました。現在もクィーンズ大学で演劇の勉強を続け、Shakespeare Actingなど、さらにレベルの高い授業を取っています。演劇史の授業では能や歌舞伎といった日本の伝統文化について学ぶこともあり、カナダで勉強している学生が日本の文化に対してどのように感じるのか新しい発見もあります。今年度秋学期の学部定期公演ではDresserとして公演前後の衣装の管理や公演中の俳優の早着替えの手伝いなどをしました。役者としての経験だけではなく、裏方としての経験をして今まではわからなかったそれぞれの苦労を体験することができました。この1年間、そして現在に至るまで充実した毎日を過ごしております。このような大変貴重な機会を下さった奨学金プログラム関係者の皆様に改めまして感謝申し上げます。今後も一生懸命精進し、日本とカナダの関係性をより良いものにできるよう少しでも貢献させていただければと思います。