Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第15回留学生② (H.K.)

クイーンズ大学での日々を振り返って

まずはこの場をお借りして、大変貴重な機会を与えて下さった皆様に心より感謝申し上げます。無事に帰国して現在は法政大学グローバル教養学部3年生として勉学と就活に励んでおります。留学中の体験記を勉強・生活・課外活動の3編に分けましたので、よろしければご一読ください。

勉強面について

私はカナダに特徴のあるものを留学中に学びたいと思い、主に先住民に関連する授業を選択しました。カナダと言えばイヌイット、のイメージが多少強かったこともあると思います。学び始めて意外だったのは、イヌイットはカナダの先住民の少数派であるということです。彼らはカナダの先住民人口のなかでも2-3パーセントと少数派ですが、不思議と日本ではよく知られているように思います。同じモンゴロイド系だからでしょうか。インディアンアクトで法律上定められるカナダの先住民は、ファーストネーションズ、メティ、そしてイヌイットです。その3つの大まかなグループの中にまた数々のグループが存在しています。「日本に侍や忍者がまだ存在する」と世界のどこかで誰かが信じているように、私も先住民の方々は伝統的な生活を現代でも当たり前に送っているものだと思っていました。しかし利便性も上がり、衛生面も飛躍的に改善した現在、昔ながらの生活を送っている人々は、残念ながら、ほぼいらっしゃらないのが現実です。多くの先住民にルーツを持つ方々はテクノロジーを組み込み、文化の伝承に力を入れています。例えば、犬ぞり等は観光客・文化学習向けでは行われていると思いますが、実際に多くの人が雪上の移動手段として使うのはスノーモービルです。

なんとなく選んだ先住民というテーマでしたが、私は予想をはるかに上回る学びを得ることができました。授業を受け、課題をこなし、隠された事実を知る度に従来の多国籍国家の友好的なカナダのイメージとは異なる残酷な歴史を知り、それが結果として現在の社会問題に直結していることに気がつきました。ページ1枚では語り尽くせない程の歴史を、現在の社会問題・政治システムを含めて学ぶことでより深く学びを得ることができたように思います。

特に面白かった授業はイヌイット文化と言語の入門クラスです。時々、マクデーモット教授が授業にゲスト講師を招くのですが、イヌイットの多く住む北ケベックやヌナブトからのゲスト講師にはヌナブト政府役員や、イヌイット文学者など様々な背景を持つ方が訪れ、授業で学んできたことをベースに実際の問題と結びつけて話し合うことができるので、とても興味深い時間でした。授業では毎週火曜日に単語テスト、木曜日に課題図書に対する意見文を提出する課題がありました。木曜日はクラスメートと同じ文献に対して異なる解釈や質問を意見交換する時間があるので、たくさんの気づきを得ることができました。より勉強に打ち込むモチベーションに繋がっていたと思います。

最後のクラスではカリブー(北アメリカに生息するトナカイ)とアークティック・チャー(ホッキョクイワナ)の冷凍肉を刺身のようにして食べました。イヌイットの伝統では専用のナイフで切り取って生で食べます。私は新鮮で冷凍されているなら多分平気だろう、と特に躊躇はしませんでしたが、やはり魚を生で食べる文化がそれほど長く根付いていないカナダの子のほとんどは恐る恐る挑戦するか、絶対に食べない子のどちらかでした。

また、食文化だけでなく、狩猟用の道具や、毛皮、服装など教授が実際にヌナブトに住んでいた時代に収集したものをたくさん授業に持参して見せてくれました。授業の大半はイヌイットによって作られたイヌイットの伝統に関するドキュメンタリーを鑑賞し、文のみではなく目を通して文化を学ぶことでより深く理解することができました。イヌイットに関連した贈り物を教授が時々くれるのですが、それは日本に帰ってきた今も、とても良い思い出になっています。

生活面について

私は留学中、キャンパス内の寮に住んでいました。値段は高いですが、セキュリティーもかなりしっかりしているので、安全面での心配は全くありませんでした。キングストンは夜出歩いていても学生の街なので安全、という印象を受けましたがそれでもたまにセキュリティーの浅い学生寮に住むと盗難被害に会う子がいたので、セキュリティーのしっかりした住宅に住むことができたのは安心でした。

私の住んでいたDavid C. Smith Houseはアパートのようになっていて、他の学生寮とは違い、基本的に隣人との関わりが薄い寮(2−4年生向け)です。私は幸い、隣のキャンメイトと打ち解けたので周辺の住人と友達になりました。キャンメイト(canmate)とは洗面所、トイレ、シャワーをシェアする、ルームメイトのような存在です。アジア人同士だったので割とすぐに打ち解け、よく買い物や夜ご飯を一緒に食べていました。

多文化を学ぶワークショップで知り、かなり驚いた習慣的もしくは文化的な違いは、自炊する寮の場合、他の学生の溜まった洗い物を「片付けて」と言っても大体は片付けないので、その都度言うか、片付けるまで見張るか、代わりに洗ってしまうということです。何度も注意することに関して、日本では嫌な印象を与えるので避けがちですが、どちらかというと、「問題があるならその場で指摘するべき」らしいのです。全5回のワークショップでは自分の文化や習慣が当たり前ではないと理解する良い機会を得ました。

留学中、一つ失敗したことは日光です。特に休暇中・冬季、カーテンを閉めたまま、日中は外出しない日が続くとビタミンDが不足して気分が落ち込み、鬱っぽくなりやすいことを知ってはいたものの、習慣的に気にすることがなかったのです。私の場合は、留学半ばにあまりにも気分が落ち込む日が1週間ほど続き、しばらく日光に当たっていないことにようやく気がつきました。薬局でビタミンCやD2の栄養剤が売っているので、すぐに購入したのでその後は健康なままでした。皆様もカナダ旅行の際、曇りの日が続き、日が落ちるのも早い季節は日光に積極的に当たるようにすることを是非お心がけください。

人生初めての一人暮らしが留学先だったので日常生活初めは慣れないことも多く、大変でした。そのうち嫌でも慣れましたが、洗い物、洗濯、料理などを慣れない土地で行うのは少なからず負担があり、留学生活に多方面で自立するきっかけが散りばめられていたように思います。

留学生活中は、課題のない休暇期間を除き一日中課題や勉強することが多く、積極的にジムに通いました。体を動かすことは健康にいいのはもちろん、ストレス発散にもなり、違うコミュニティーの友人も増え一石二鳥です。

日々の課題量はやはり日本の大学で出るより多く、特に試験期間は普段の課題量に加え、試験期間分の課題と試験勉強が追加されるので、基本的にずっと勉強しても時間は足りませんでした。英文を読むことに抵抗がなくなったので、そこが成長を垣間見られる点の1つです。

食に関しては特に食べられないものはありませんでしたが、炊飯器を購入しなかった為、日本産のレンジでチンするご飯がとても美味しかったのを覚えています。キングストンで韓国製のレンチンご飯を購入したのですが、温めると酸化剤の匂いがきつかった為、最終的には友達に炊飯器を貸してもらい、ピザやポテトを食べ飽きたときには自炊して温かいご飯と炒め物を食べていました。

冬の間の留学は暗く、寒く、そして寂しいです。今は無料で家族や友達とテレビ電話で会話をすることもできる便利な時代ですが、もちろん孤独との戦いもあります。辛い時もありましたが、自分に時間的・精神的余裕を持たせるようにして乗り越えることができました。また、勉学に勤しむだけでなく進んで新しい輪に飛び込み、人と過ごし、新しい体験をする時間を得ることができたのも大きな喜びでした。留学先で、しかも同じ授業を取っている人との出会いは同じ分野に興味のある友達を探す”最大のチャンス”です。勉強以上に、何かに携わり活動することが大事だと私は思います。

課外活動について

私は休みが重なっている友達と共に小旅行に出て、オンタリオ州のオタワ、トロント、アルゴンキン州立公園、ケベック州のケベックシティ、モントリオールなど観光しました。また、留学の土地に関するイベントに参加したのも、土地の歴史や文化を学ぶ良いきっかけになりました。また、大学新聞のThe Queen’s Journalに記事を寄稿したのもいい思い出です。クイーンズ大学は新聞の質が大変高く、学生にして想像以上のプロフェッショナルな環境や人に囲まれて幸せな時間を過ごすことができました。普段記事を校閲してくれていたJosh Granovskyは今年の夏日本に遊びに来て、再会することができました。その他にも日本に留学中のクイーンズの学生とも定期的に交流しています。

The Queen's Journal のようなコミュニティを是非日本の大学にも作りたいと思い、帰国後、留学生を3人メンバーに迎え英字雑誌ザ オレンジ・スポットライトを9月より始動いたしました。2020年の2、3月に紙媒体で初号が出ますが、ウェブでも随時更新いたしますので是非ご一読ください。

最後に

長いようであっという間に過ぎてしまったキングストンでの学生生活は私を強くしてくれただけでなく、たくさんの学びと友人、そして日本ではなかなか得ることができない、雪と氷の上を歩く技術を授けてくれました。

このように大変貴重な機会を与えて下さった皆様に改めて心より感謝申し上げます。