Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第2回留学生 (C. A.)

高円宮記念クイーンズ大学奨学金による留学生カナダ奮闘記

カナダでの九ヶ月についての感想をもし一言で語るなら、 "wicked", "terrific" という言葉が自然と口をつくでしょう。この言葉は寮で朝から晩までいつも共に過ごした親友たちが感激する度に口にしていたものです。カナダについて知りたい、何でも体験したい、自分の目で感じ触りたいと奮闘した夢のような九ヶ月でした。

帰国して早いもので三ヶ月が経ちますが、いまだにカナダでの出来事が恋しく感じられます。その中でも特に会いたいと思うのは友人たちです。十二人でキッチンやお風呂を共用していたHarkness Hallという国際学生寮での仲間たちとは多くの思い出があります。とてもオープンな仲間たちでいつも部屋のドアを開けていたので、嬉しいことや悲しいことがある度に誰かの部屋に入り込み話をした。お互いの文化、将来、物事の価値観など色々なことについて話しました。悩み事もいつも真っ先に相談していました。皆、議論することが好きで、おかげで随分どのようにしたら相手を説得出来るか考えるようになったと思います。結局、世界どこの国でも同世代の友人たちは似たような悩みをかかえているようです。おそらく彼らが私を思い出す時、折り紙のカードと共に思い出してくれることでしょう。いつも一緒だった彼らに感謝の気持ちをこめて、ハローウィーン・クリスマス・バレンタインと行事の度に私は折り紙のカードを作り、0時きっかり回ったところでドアに貼り付けたものでした。皆いつも、「次は何?」と楽しみにしてくれていました。キッチン対抗のクリスマスのデコレーション大会の時は、キッチンは即折り紙教室となり、皆で色画用紙を折ってクリスマスツリーを作ったりもしました。時には頼まれて日本食パーティーもしました。逆に彼らから彼らの食事の作り方を習ったり、一緒にサイクリングに行ったりすることもありました。

寮の外でも授業やクラブ活動などで数多くのカナダ人の友達と出会いました。その多くはオンタリオ出身でしたが、アルバータ・B.C.などから来ている学生もおり、多くの友人の家に招いていただいて、カナダ式の食事・文化を教えてもらいました。特に印象的だったのが、日本に帰国する途中に寄らせてもらったFort McMurrayの友人のところです。彼女の親戚が油田で働いているとのことで、実際に連れて行っていただきました。オイルサンドを掘り出し、そこから石油を抽出している工場でした。400tトラックに乗ったスリルは今でも忘れられません。地平線が見えるような大平原で作業をしていたとてつもなく大きなトラック・ショベルカーは、日本では考えることの出来ないほどのスケールでした。

このように友人たちと次から次に楽しいことを探して毎日を過ごしました。カナダ人の学生に対して何よりも感嘆したのは、ON,OFFの切り替えの巧みさです。先程までキッチンでパーティーをしていたかと思うと、次の瞬間には部屋で猛勉強をしていました。週末の度に部活の試合に出かけて留守にしているような人も、試験前となるとスイッチが勉強の方に切り替えられていました。夜中の3時に勉強の休憩でキッチンに来ているのに会ったかと思えば、次の日の朝9時には図書館で会うというような感じです。そして授業中、彼らは真剣勝負をしていました。そのような周りの学生に影響されて私も必死に授業を受け、勉強していました。

私は日本では薬学を専攻しています。ゆえに、Queen's大学でも生物学科に属し、遺伝学・有機化学を中心に学習しました。慣れないdiscussion 、presentationやResearch Proposal には大いに苦しめられました。後期は卒業間近の四年生のクラスに混ぜてもらえたので、十人から二十人の少人数のクラスでたくさん鍛えていただきました。新しい研究の論文を常に高速にupdateしておく技術、そしてそれに対する独創的な反応が求められました。この経験は将来、国際的に活動する科学者を目指す私にはとても貴重な体験となったことと思います。

そしてこの専門の授業以外に私が最も感銘を受けた授業がCanadian Art Historyのクラスです。カナダにいるからこそ、カナダのことがどうしても学びたかった私は絵画鑑賞が好きという理由でこの授業を選びました。このクラスは勿論Emily Carr や Group of Seven のことを取り上げました。しかし意表をつくことに、それにとどまらずカナダの社会について論議する授業だったのです。イギリスと国王を共にしつつ、アメリカと経済的に深く結びついているカナダ。西と東での対立。ケベック問題。ここ数十年はアジア系の移民の問題。カナダとは一見雄大で平和に見えて、一つに統一されたアイデンティティが持つことが出来ないという葛藤を抱いているようです。これはあまりにも私が持っていたカナダのイメージと異なっており、授業の後に呆然とする日もありました。ショックで寝付けない日もあったくらいです。しかし、この授業で50本近くのカナダに関する論文を読み、カナダ人の学生と論議することによって、私はよりカナダに興味を抱くようになりました。複雑で奥が深いほど、ますます知りたくなるようです。行く前からカナダが好きでした。そして気づいたら大ファンになっていました。

Queen's大学のホッケーチームを大声で応援したこと、雪だるまを子供のようにはしゃぎながら作ったこと、ハローウィーンの日に変装してボランティアをしたこと、数々のクレイジーなパーティー、カナダをほぼ横断するような旅行で見たカナダの様々な横顔。私の心の中にはそのような一コマ一コマが詰まった大きなアルバムがあります。カナダでのアルバムは他のどの年のものより分厚くカラフルです。この立派なアルバムに詰まった思い出・経験を胸に、私は国際的に活動出来る科学者を目指して頑張ろうと思っています。大好きなカナダでいつか研究をすることを夢見て。

最後になりましたが、このようにかけがえのない充実した一年を過ごすチャンスを下さった、高円宮奨学金に関わられた全ての方々に心から感謝を申し上げます。

ありがとうございます。

At Queen's University
Photos by C.A.