Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第5回留学生 (N. U.)

カナダから帰国して早くも3ヶ月ほどが経ちました。8ヶ月間にわたるクィーンズ大学でのすばらしい日々は、色あせるどころか、ますます懐かしく思い出されて、『カナダシック』が日に日にひどくなっているほどです。1年前カナダに行く前はこんな風に自分がなるなんて予想もしなかったので自分でも驚いています。渡加前に、高円宮妃殿下にご挨拶に伺ったとき、妃殿下がおっしゃった「チャンスは来たときにつかまなくちゃ!」とのお言葉を励みに、8ヶ月間いろいろなことに挑戦して参りました。カナダの広大な自然が自分を待ち受けていたものは、たくさんのすばらしい出会いと二度とないであろう経験の数々でした。

高円宮殿下が留学なさったクィーンズ大学のあるキングストンはモントリオールとトロントの中間、オタワからも近い場所に位置しています。近いと言っても車で3時間くらいですので、カナダにいる間に距離や時間の感覚というのが自分のなかでかなり変化したことを感じています。19世紀半ばにはカナダの首都であったこともあるキングストンには、現在では約12万人の人が生活しています。カナダ最古の大学のひとつといわれているクィーンズ大学は2009年のカナダの大学ランキングでは、トロント大学と並んで2位に選ばれた名門大学です。私にとってのキングストンの印象はまず、学生中心に動いている町でした。たとえば、皆キャンパスのそばに住んでいて、バスは学生は無料、町中で顔見知りに会うことは日常茶飯事でした。この意味では、皆がばらばらに住んでいる東京とは大きく違う大学生活になりました。

9月の到着後早々に、私はオリエンテーションのイベントに参加しました。おそろいのTシャツを着て、歌をうたったり小旅行に行ったり、キャンパス内を練り歩いたりと、知り合いが一人もいない状態だった私は一気に友達を増やすことができました。皆でつなぎを着て絵の具をかけあったり、とにかくパンケーキを食べ続けたり、と今思えばカナダの大学の洗礼を受けた一週間でした。あまりに皆がパワフルなので、こうやって一年間が続いたらどうしよう・・・と心密に不安を覚えたことも事実です。

そうした私の不安のような期待のような気持ちとは裏腹に、2週目からはきちんと授業が開始しました。その後もいつも驚かされることになるのですが、カナダでは大盛り上がりのイベントの後でも、いつでも皆しっかりと勉強に戻り、メリハリのついた学生生活をおくっていました。私が専攻にしていた美術史、フランス語では、スタイルも観点も日本とは違った授業で、毎回新しいことを吸収できました。積極的なカナダ人学生の姿勢に刺激を受けることも多かったです。授業はとても充実していたのですが、はじめのうちは英語力のせいで、他の学生が話していることについていけずに悔しい思いをすることも多く、ずいぶん落ち込むこともありました。しかし、滞在していた国際学生寮で多くの学生と知り合い、彼らとの交流を深めるうちに、前向きな姿勢でいることができ、また英語力も自然と身に着けることができました。多くの国籍の人達と暮らしを共有し、常に誰かが身近にいて、様々な価値観や文化に触れた寮での生活は今とっても恋しく感じているもののひとつでもあります。そこで知り合った友人たちとカナダのいろいろなイベントに参加しました。たくさんの卒業生がキャンパスに帰っていくるホームカミングというクィーンズの伝統行事、サンクスギヴィング、ハロウィン、セントパトリックスデイ、イースター・・・ 北米独自の文化、ヨーロッパ移民やアジア移民の影響を受けた文化、とカナダならではの季節の楽しみ方を体験した行事の一つ一つが大切な思い出です。

授業や寮の生活の他にも、もっと色々なカナダを見てみたいと重い、クラブ活動や旅行も積極的に行いました。寿司ワークショップをクッキングクラブで主催した時には、準備にてんてこ舞でしたが、皆とっても喜んでくれました。アウトドアクラブで出かけたキャンプで、大きなバックパックを背負ってハイキングをしたことや、ロッジで蝋燭をつけて皆で歌ったこともカナダらしいとても良い思い出です。旅行では、何よりもイエローナイフで見たオーロラが夢のように思い出されます。写真で見ていたイメージよりもずっと神秘的で、極寒の中、何時間眺めていても飽きることのない美しさでした。日本への帰国前に寄ることのできたヴァンクーバーも新しいカナダを見せてくれました。山と海が隣接する美しい街中では英語と中国語の2カ国表記が多く見られ、移民の国カナダならではの光景でした。旅行中には美術館を訪問し、授業で学んだカナダの美術作品を実際に目にする機械をもつことができた事もとても良かったです。

こちらがカナダを学ぶばかりではなく、カナダの人達にも日本の文化を少しでも知ってもらいたいと考え、日本語学部の学生のお手伝いをしたり、折り紙ワークショップをしたりしました。茶道のお手前を披露したときには日本文化を知っていて良かったと深く実感しました。また、日本食は文化紹介には何よりも活躍してくれました。こちらが教えたり、もてなしたりする立場であっても、何回カナダ人の学生の別の物の見方や外国としての日本を発見し、逆にこちらが学んでいることのほうが多かったように思っています。日本文化を紹介しながらも、日本にいてはすることのなかった経験がたくさんありました。

『本当のカナダ』を探してたくさんのことに挑戦した8ヶ月でした。しかし、考えれば考えるほど、知ろうとすれば知ろうとするほど、カナダという国はいろいろな可能性や幅の広さをもって私に迫ってきました。たとえば、典型的なカナダ人といって思い浮かべるイメージはほとんどのカナダ人にはまったくあてはまらないし、文化、言葉、食生活、国民性、どれをとっても一語で定義できるものはありませんでした。この多様性は私の暮らしてきた日本とは本当に対照的でした。環境の違いは違ったものの見方も教えてくれました。また天候の違いも大きく人々のメンタリティーに影響していると肌で感じました。まだまだカナダを発見するべきことが待っているような気がしていて、この9月からクィーンズのキャンパスに戻ることができたらどんなに良いだろうとついつい思ってしまいます。こんなにも素晴らしい経験をさせて頂くことができたのは、他でもない高円宮奨学金のおかげだと、感謝をかみしめております。最後になりましたが、高円宮妃殿下はじめ、日加協会、大使館のみなさま、関係者一同の方々にお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。今後とも、クィーンズ大学、そしてカナダとの関係を保つべく努めていきたいと思っておりますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。