Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第7回留学生 (M. F.)

私がカナダから帰国して、早くも2ヶ月が経ちました。カナダで出来た友人とFacebookを通じて会話していると、クィーンズでの日々が鮮明に思い出されて、新学期からみんなとクィーンズへ戻るのではないか、という錯覚にとらわれるようです。

1年前の9月初旬。トロントの空港に1人で降り立った私は、不安な気持ちでいっぱいでした。カナダのことも、クィーンズのこともよく知らないまま、キングストンに到着してしまった私を待ち構えていたのは、たくさんの新しい友人と、日々新しいことばかりのカナダの大学生活でした。

新学期の最初の1週間に行われるオリエンテーションウィークは、毎日みんなでお揃いのTシャツを着て歌ったりダンスをしたり、ミステリーツアーと称してモントリオールに行ったり、オーバーオールにペンキをかけあったり、とにかく盛りだくさんな内容で、今でもかけがえのない思い出の1つとして心に残っています。朝から晩まで大騒ぎし、早速カナダの大学の洗礼を受けました。最終日にTamと呼ばれるスコットランドがルーツの帽子をもらい、クィーンズの生徒として認められたときは、これからはじまる1年間に胸を躍らせました。

私が1年間過ごしたクィーンズ大学は、オンタリオ湖の湖畔、トロントとモントリオールの間、それぞれから3時間ほどの距離にある、キングストンという小さな都市にあります。カナダの大学の中でも常にランキングの上位に入る名門校で、また創立が1841年とカナダの国家成立より早い、歴史と伝統のある大学でした。フットボールの試合などにはみんなでクィーンズカラーに身を包み、Tamを被って応援しに行く、といった愛校心の強い大学で、私が日本で在籍している学校とは全く異なり、とても興味深かったです。

クィーンズでは、多文化主義や移民政策、人種についての問題など、移民の国、カナダだからこそ学べる授業をたくさん取りました。カナダには移民を受け入れてきた歴史があり、移民への社会の対応や人種・宗教・文化などの違いに対しても寛容であると感じました。しかし、それがまだ完璧に整っているわけではなく、未だ差別は続いていて、実際に私自身何度かアジア人蔑視に遭遇したこともありました。特に“Race and Racism”という授業では、日系カナダ人3世の教授の下、カナダにおける人種や宗教的理由による差別の歴史について学び、特に日系人の歴史に関心を持ちました。今では“Cool Japan”としてこれほどまでに好かれているのに、こんな悲惨な過去があったのだ、と複雑な気持ちになったりもしました。

最初の頃は日本での授業に馴染んできた頭がついていけず、授業中に発言できずに悔しい思いもしました。レポート課題が出る度に教授のオフィスアワーに通ったり、TAの方にアドバイスをもらったり、テスト期間になると24時間開いている図書館に篭って勉強したり、日々研鑽に勤めてきました。1年経った今、英語力が完璧になったとは言えないものの、物怖じせずに話したり、わからないことはわからないと質問したりできるようになりました。

クィーンズでは日本人学生は少なく、どの授業でも日本代表として意見を求められる機会が数多くあり、自身の日本についての無知や無関心を痛感させられました。以前は、海外に憧ればかりを抱いてカナダに渡った私ですが、初めての海外生活を通して見えてきたのは、自分が生まれ育った国、日本が素敵な国であるか、ということです。日本に関心を持ってくれる人が海外にはたくさんいるのに、日本に住む日本人がその素晴らしさや実態を理解していないということを残念に思ったのと同時に、これから海外に出ていくからこそ、もっと日本についての理解を深めていきたいと感じました。カナダでの生活の中で日本についてよく考えることができ、最初の頃には聞かれて困ってしまったことでも、留学も後半戦に差し掛かってくる頃には自分の意見や考察も入れて説明することができるようになっていました。このように、自分が日本人であることを実感したのと同時に、個人としての私であることの必要性も感じました。私が留学していた年度は日本からの留学生は私以外に誰もいなく、最初はとても寂しい思いをしました。特に、長期間海外で生活をするのが今回初めてであったため、異文化間での生活にストレスを感じるなど、精神的に辛い時も多々ありました。しかし、それも次第にではありましたが特に負担ではなくなっていきました。様々なバックグラウンドを持つ友達と接する中で、日本人であることと同時に、その枠組みだけに存在するのではなく、私は私という個人であるということ、を知ることが出来ました。

留学期間中には休みを利用してトロント、オタワ、モントリオール、ケベックシティなどのカナダ東部の都市を、帰国前には東端のプリンス・エドワード島からバンクーバーまで1ヶ月かけて列車で旅をしました。途中様々な都市に寄り、異なる表情のカナダに触れることができました。赤毛のアンで有名なキャベンディッシュに行ったほか、極北のノースウェスト準州、ヘイ・リバーまで行き、犬ぞりやスノーモービルを体験したのもいい思い出です。

東日本大震災が起こった際には、クィーンズのJapanese Relationsの募金活動に参加しました。地震後はしばらくカナダのトップニュースをキープし、現地での関心も高く、たくさんの学生が募金をしてくれました。カナダの人々から日本がどれほど好かれているかを実感しました。私が被害の大きかった茨城県出身ということもあり、不安になったり、落ち込んだりもしましたが、周りの友人が励ましてくれたり、部屋まで様子を見に来てくれたりと、まるで家族のように支えてくれました。「今自分にできることは、カナダでしっかり学んで帰ることだ」と気持ちを切り替え、充実した残りの日々を過ごすことができました。

日本人の多くはカナダにとってきわめて良好な感情を持ち合わせています。実際に行ってみて、その通りの部分もあれば、考えていたことと異なる部分も少なからずありました。それでも私はカナダが大好きだし、今では第二の故郷のように感じています。

私はこの奨学金を頂いて、使命のようなものを感じました。ここまで私を導いてくださったことに感謝し、この留学で学んだことを社会に還元していきたいと思いました。特にクィーンズに奨学生として行かせてもらったことで、カナダと日本のより良い関係に貢献したいと考えるようになりました。また1年前の私のように、海外に行ってみたい、知ってみたいと思いながらなかなかチャンスに恵まれない若者をサポートし、海外と日本について客観的に見ることができるような次世代を育成することに従事したいとも考えています。

最後に、高円宮妃殿下をはじめ、日加協会、カナダ大使館の皆様、関係者様への感謝をここに示し、この体験記を終わりたいと思います。