Prince Takamado Visiting Student Scholarship

Message from Past Students - 第8回留学生 (W. Z.)

期待と気合いと大きなスーツケース1つだけを持って成田空港を旅立った日からもう1年以上が経ちました。出発の日のこと、そしてカナダで過ごした一日一日を私は今でも鮮明に覚えています。

思えばこの留学生活は、最初から最後までよくも悪くも予想外のことだらけの8ヶ月でした。成田を出て私が向かった先はトロントからさらに飛行機で1時間北西に行ったところにあるキングストンという小さな街だったのですが、そこに行き着くまでに早くも試練が待っていました。トロントからの飛行機が悪天候のため3時間遅延、半ば無理矢理飛び立ち雷雨の中を進んだ挙げ句目的地に着陸できずなんとオタワまで行ってしまうというハプニングに見舞われました。その間英語力の初期値が非常に低かった私は、何が起こっているのか全く分からずただあたふたしてしまいました。ようやくキングストンにたどり着いてからも英語力のせいで苦労することは多く、ひたすら理解できない、理解してもらえない状況と戦っていました。そんな中で初めて大学の担当の方とお会いして話したときの尋常でない安心感は忘れることが出来ません。

私が通っていた大学はクィーンズ大学という、トロント、マギルに並ぶカナダ有数の名門校で、そんな所で自分が学ばせて頂ける有り難さを日々感じていました。実際周りの学生も現地生・留学生問わずとてもレベルが高く、刺激を受けることがたくさんありました。ただ驚いたのは、勉強に真面目だからといって遊ばない訳では全くないということでした。むしろオンオフがはっきりしていて、遊ぶ時は日本人とは比べ物にならないくらい豪快に極端に遊んでいるといった印象でした。特に初めの一週間で行われるオリエンテーションウィークには相当驚かされました。全身紫の人達が構内を歩いていたり、お揃いのオーバーオールにペンキをぶつけ合ったり、とにかく騒ぎ続けの一週間で、お祭り騒ぎが大好きな私もさすがに圧倒されてしまい、留学体験談でよく目にする「洗礼」の意味が分かった気がしました。

しかしこの一週間が終わると、キャンパスは一気に勉強モードに変わります。本屋さんは教科書を買う人でごった返し、友達との会話の話題も授業選びについてなります。私は日本での専攻ではないけれど学んでみたかった分野の授業を取ることにし、Sociology、Cognitive Science、Gender Studiesなどの授業を選びました。昔から憧れていた海外の大学の授業をとうとう受けられることになり期待で胸を膨らませていた私ですが、いざ出席してみると教授や他の生徒の言っていることが分からなかったり、教授や他の子に迷惑をかけてしまったりしてそんな自分に失望してしまいました。そんな日々が少し続き、寮でも同じセクションのクラブ、パーティー好きの友達とあまり馴染めず、外に出て行くことに臆病になってしまい、帰りたいと思うこともありました。そんなときある団体が私を救ってくれました。それはQueen’s International Friendship Groupというキリスト教をベースとした団体で、ディナーやBible Studyなどの毎週のイベントや、季節の行事の大きなパーティー等を全てボランティアで開いていて、たくさんの留学生が出入りしていました。私が一回勇気を出して参加してみるととても暖かく迎えてくれて、その後のイベントも誘ってくれるようになり、それ以降一気にQueen’sでの生活が輝いて感じるようになりました。素敵な友達がたくさんできただけでなく、そこで出会った人達から自ら外に出て行く勇気をもらい、教会のボランティアやジムアクティビティにも参加するようになり活動の幅が一気に広がりました。いま留学生活を振り返っても一番に出て来るのはそこで出会った人達や彼らと過ごした時間のことのように思います。授業についても、勇気を出して積極的にTAや教授や友達に助けを求められるようになり、何度も困らせてしまったものの最後には授業を楽しめるまでになり、なんとか良い成績を頂くこともできました。

留学中たくさんした旅行も忘れられない思い出の一つです。Thanksgiving Dayや冬休みを使ってモントリオールやオタワに行き、4月末に学校が終わってからは3週間ほどかけてアメリカ東海岸と、プリンスエドワード島、バンフ、バンクーバーを回りました。訪れた街にはそれぞれ独特の魅力がありましたが、特に感動したのはナイアガラの滝やバンフで出会ったカナダらしい壮大な自然でした。またそこで、カナダの人がその自然を大切にしているのがとてもよく伝わって来ました。カナダの素晴らしい自然は私がカナダを大好きになった理由の一つです。

この留学は予想外のことだらけだったとは言いましたが、人も文化も本当に日本と全く違って驚くことが何度もありました。カナダの人達はとてもおおらかでフレンドリーで、また自分の国をとても愛していて、忙しく淡白な街東京で生まれ育った私には大きな驚きであり、すごく素敵だなと感じました。逆に日本人の細やかさ、心遣いなどを恋しく思い、日本人の良さに改めて気づくこともありました。

もう一つの大きな違いは食べ物でした。カナダの食べ物は基本的にアメリカと似ていましたが、色々な国、特にアジアの料理も楽しめることは私には嬉しいサプライズでした。(本当の日本食にはなかなか出会えずとても恋しかったのですが…。) 食事の量も日本とは桁違いでした。初めてレストランで日本の3人前くらいの食事を出されたときは面食らってしまいましたが、1ヶ月もしないうちにすっかり慣れてしまい、帰国後元の食生活に戻すのに悪戦苦闘中です。ほかにもたくさん日本との違いに驚かされ続けましたが、この留学を通じてカナダの魅力を知っただけでなく日本の魅力を再発見できたことは大きな収穫だったと思っています。

こうして留学中のことを振り返っているともう一度キングストンに帰りたいという気持ちで一杯になります。この留学で出会った人も自然も街並みも、恋しくて仕方ありません。8か月という期間はあっという間ではありましたが、いろいろなことを経験し、考え、感じ、人生の中で一番と言っていいほど密度の濃い時間でした。何より人の暖かさを痛感した8ヶ月間だったなと思います。暖かく送り出してくださった妃殿下や大使館、日加協会の方々を始め、右も左も分からない状態からずっと面倒を見て下さったQueen’sの担当の方、前年の奨学生のMFさん、向こうで出会ったたくさんの友達、教授やTA、ドン、ボランティアの方々、そして日本から応援してくれていた友達や家族など、本当にたくさんの支えがあったからこそこんなに楽しくて幸せな留学生活が送れたのだと思っています。感謝の気持ちは言い尽くせませんし恩返しができるまでには時間がかかってしまうとは思いますが、せっかく頂いたこの経験を自分の成長に活かし、また将来は日本とカナダの友好関係に少しでも貢献できたらと思います。

最後にもう一度お世話になった全ての方々への感謝を申し上げ終わりの言葉とさせて頂きます。本当にありがとうございました。