山野内在カナダ大使

2022年も半分を過ぎて7月になりました。

7月1日は「カナダ・デイ」でした。カナダの建国記念日です。振り返れば、今から155年前の1867年の7月1日に、英国議会で成立した英領北アメリカ法に基づき、現在のカナダに直結する独立国としてカナダが建国されました。この日はカナダ全国祝日で、カナダ各地で花火大会を始め様々な祝賀イベントが開催されました。

さて、そんな中、カナダ大使として5月3日にオタワに着任して早いもので2ヶ月が過ぎました。御承知のとおり、カナダは、ロシアに次いで世界で2番目に国土面積を持つ広大な国です。日本の27倍の大きさです。首都オタワのあるオンタリオ州だけで日本の2.8倍もあります。首都だからと言ってオタワにだけいて仕事をしてもカナダのことを十分に理解することは出来ないのは明らかです。地理的な広がりは、カナダの歴史と密接に関係していますし、カナダのアイデンティティーの根幹を成します。日系企業もカナダ全土に展開しています。そこで、この広大なカナダを出来るだけ多面的に理解するために、一つの目標を掲げました。着任から1年以内に、カナダの全10州及び3準州を訪問する、というものです。

この目標を実現するために、まず総領事館が置かれている4都市を訪問しました。カナダの広大さと同時に各州の歴史や文化について理解が深まりました。また、各地で長年にわたる日本とカナダの友好親善関係の深さと幅広さに感銘を受けました。同時に、気候変動とウクライナ危機の時代にあって、日加間の経済協力とビジネス関係の一層の強化の重要性を実感しました。

1. トロント

5月26〜27日、大使としての初出張はトロントでした。今やシカゴを抜いて、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ北米第3位の大都市となったトロントは、実に巨大で自由にして多様な街でエネルギーに満ちていると感じました。音楽ファンの私としては、トロントと言えば、チャーリー・パーカーディジー・カレスピーらビバップ革命の旗手がこの地で超名盤「ジャズ・アット・マッセー・ホール」を録音した街ですし、天才グレン・グールドの出身地にして、数々のTV番組を制作した街でもあります。

そんなトロントでは、最初に日系文化会館(JCCC)を訪れました。2009年7月には天皇皇后両陛下(現上皇上皇后両陛下)がお越しになり、此処で日系人及び在留邦人と交流されました。日本文化と日系カナダ人の歴史が凝縮している日本関連コミュニティーの中心的な場所です。柔道・剣道・空手等々の武道から茶道・生け花、そして日本語が学べます。今や非常に有名になったトロント日本映画祭も毎年、著名監督と俳優を招いて行われています。

ノーベル賞受賞者を多数輩出しているトロント大学では、日本研究センターフィリップ・リプシー教授とルイス・ポーリー教授と意見交換。また、日加安全保障シンポジウムの加側議長を勤めるウォータールー大学デヴィッド・ウェルチ教授とも議論しました。話題は、ウクライナ危機、気候変動、中国、「自由で開かれたインド太平洋」そして日加関係と多岐にわたりました。激動の国際情勢にあって日本とカナダが一層緊密に連携・協力していくことの重要性で一致しました。

トロント大学リプシー教授らと

(ご提供:山野内在カナダ大使)

トロント日本商工会JETROJNTOジャパン・ソサエティーとの夕会食では、カナダにおける新しいビジネスの可能性、コロナ後の観光、日加間の交流強化について、実に有益な話を伺うことが出来ました。

2. モントリオール

6月14〜15日は モントリオールに出張しました。先住民のイロコイ族の砦があったこの地にジャック・カルティエが到達したのは1535年。王の山(モン・ロワイヤル)と名付けたのがモントリオール(仏語でモンレアル)の名前の由来と言われています。実際に街がつくられ、フランス人の入植が始まるのは1642年。カナダ建国(1867年)から遡ること235年前のことです。北米初の病院が建てられ、ヌーベル・フランスの中心地となり、フランス人探検家の拠点となりました。カナダの歴史を体現している街です。

モントリオール・ノートルダム大聖堂

(ご提供:山野内在カナダ大使)

そんなモントリオールは、オタワから車で2時間程度の距離ですが、オタワとは全く異なる趣きで、フランス語とカトリック教会の街だと感じました。実際は、モントリオールはケベック州の中では最もイギリス色の強い街なのだと、ブロック・ケベコワ党の伝説的指導者ジル・デュセップ元党首から伺いました。齊藤総領事公邸にて昼食を取りながらの元党首との会談は極めて刺激的でした。ケベック州独立運動の騎手は、今も意気軒昂でフランス語を守りぬく強固な意思が印象的でした。私からは、日本を含め外国からの直接投資を歓迎しつつ、フランス語義務化を立法するケベック州の姿勢の問題点を指摘した上で日本企業の懸念も率直に述べました。ケベック州と連邦政府の関係を理解する上で、極めて有益な機会でした。

また、ケベック大学シャルル=フィリップ・ダヴィ教授との面談も有益なものでした。教授は、地元テレビ番組でコメンテイターを勤める論客でもあり、プーチン大統領批判、更には米加関係の敏感な部分、日加関係の潜在力について雄弁に語っていました。

そして、モントリオールはハイテクの街です。現代のAI研究開発の第一人者ヨシュア・ベンジオ教授もモントリオールを拠点にしており、世界中から才能と資金が集まっています。島津製作所はじめ日本企業もここで最先端の技術開発を行っています。また、ボンバルディア社の小型機部門を買収した三菱重工も、モントリオール近郊でリージョナル・ジェットのMRO事業を手がけています。ビジネスの現場の話を伺うことが出来ました。

最後に、カナダ宇宙庁(CSA)を訪問しました。リサ・キャンベル長官と宇宙分野での最先端技術による日加協力について議論。そして、宇宙庁施設の視察です。若田さんはじめ多くの日本人宇宙飛行士も訓練した国際宇宙ステーション(ISS)のロボット・アーム・シミュレーターを実際に操作させて頂きました。NASAとISSとリアルタイムで接続してのオペレーションにも興奮しました。

モントリオール郊外・カナダ宇宙庁リサ・キャンベル長官と

(ご提供:山野内在カナダ大使)

3. バンクーバー

6月26〜28日のバンクーバー出張は、オタワから約5時間のフライトで微妙な時差を感じつつ、東部とは全く異なる雰囲気を味わいました。改めて、カナダという国の大きさを実感した次第です。

バンクーバーの夕陽

(ご提供:山野内在カナダ大使)

まず、第2次世界大戦中のユダヤ難民に対する杉原千畝ビザに関し調査研究を進めて来られたジャーナリスト高橋文さんと面談。カナダ国内の杉原ビザ・サバイバーの現状を伺い、今後の日本とカナダ国内のユダヤコミュニティーとの協力の可能性について話し合いました。

また、バンクーバーにおける日系カナダ・コミュニティーの中核である日系文化センター・博物館も訪問。日系祭りをはじめ日本文化発信の努力に頭が下がる思いでした。更に、リドレス運動を含め日系カナダ人の歴史について貴重な話を伺いました。北米各地の日系コミュニティーの連携の重要性にも言及があり、今後の大切な課題だと思います。

バンクーバー日系文化センターハーブ・オノ会長、ケーラ後新門フォスター様らと

(ご提供:山野内在カナダ大使)

バンクーバーはカナダ太平洋岸の一大経済拠点で、日系企業も多く進出しています。大小様々なビジネス関係団体が設立されています。今回は、「バンクーバー日系経済連絡協議会」と「バンクーバー懇話会理事会」それぞれと意見交換する機会を得ました。地球温暖化とウクライナ情勢の中で、民間ビジネスの発展のために政府として支援出来る事は何でもやるとの姿勢で臨みました。

更に、BC州日加協会の関係者との夕食会も大変に有意義なものでした。1928年設立の日加協会はカナダの歴史の中で最も古い二国間の非営利団体です。日本との友好親善の一層の強化に向けたカナダ側の意気込みに感動しました。

4. カルガリー

カルガリーには、6月29日朝空路で入りました。“地上最大のアウトドア・ショー”と称されるカルガリー・スタンピードを翌週に控え、街は活気にみなぎっていました。私はと言えば、出張日程が過密になって、この日は午前11時から5件のアポをこなし、ホテルにチェックインしたのは午後11時近くになり、疲労困憊しました。が、どれもが非常に有益で大変に勉強になりました。平原州から見えている首都オタワ、アジア太平洋、日本を知る絶好の機会でしたし、何と言っても、農業とオイル&ガスで富を築き栄華を極めた街カルガリーが、今、新エネルギーとハイテクの街に変貌しようとしている真っ最中であると実感しました。

カルガリーの街並みとプレーリー

(ご提供:山野内在カナダ大使)

シンクタンク「カナダ・ウエスト財団」訪問、アルバータ日本ビジネス懇話会メンバーとの昼食会、カルガリー経済開発公社ブラッド・パリーCEOとの意見交換では、まさに平原州のビジネス最前線の話を直接聞けました。

そして、LNGカナダ本社を訪問。ジェイソン・クライン会長との面談は極めて有意義でした。LNGカナダは、トルドー首相が「カナダの歴史上、最大規模の民間投資プロジェクト」と呼ぶ、巨大プロジェクト。BC州奥地からパイプラインを敷設しカナダ西海岸から日本を含むアジア諸国へ2020年代半ば迄のLNG輸出開始を目指しています。その現状について直接、クラインCEOから説明を受けた次第です。この件については、回を改めて、詳細を報告したいと思います。

内田カルガリー総領事公邸にて。アルバータ州の日本関係者の方々と

(ご提供:山野内在カナダ大使)

カルガリー出張の締めは、内田総領事公邸での夕食会でした。エドモントン日系人会会長、カルガリー日系人会監査役、エドモントン名誉総領事、アルバータ大学高円宮日本教育・研究センター所長、日加友好庭園総裁に参加頂きました。日加間の文化・人物交流の歴史の重み、奥深さと今後の大きな可能性で議論は夜遅くまで続きました。

新任の大使の日程は、信任状捧呈、着任表敬、各種の事務的手続き等々、結構忙しいものです。が、日程の合間をぬって3度出張しました。上述の通り濃い内容で、現場に赴いて初めて知る事ばかりでした。大いなる発見があり、多くを学び、カナダに対する理解が深まりました。関係者の皆様の御協力に心より感謝しております。

Toronto / トロント

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Calgary / カルガリー

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Ottawa / オタワ

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