山野内在カナダ大使

皆さま、こんにちは。

地球温暖化が言われて久しいですが、今年は異常な程の危険な暑さが世界各地で報告されています。世界一寒い首都オタワの遅く短い夏でも30度を超える日が何度もあるほどです。実際、8月最初の週末となった6日の土曜日は最高気温33度の猛暑日でした。そして、この暑い土曜日は、やや大袈裟に言えばオタワ在住の日本とカナダと米国の野球ファンにとって大変に熱い日となりました。今月の「オタワ便り」は、その模様を報告させて頂きます。

まず、カナダ最大の都市トロントにはメジャー・リーグ所属の「ブルージェイズ」があります。首都オタワには残念ながらメジャー球団はありませんが、「タイタンズ」というプロ野球チームがあるのです。この球団は、米メジャー・リーグ、マイナー・リーグ傘下の独立リーグの1つ「フロンティア・リーグ」に所属していて、リーグのチャンピオンシップ獲得を目指して年間100試合をホームとアウェイで行なっています。

とは言うものの、正直なところ、野球はメジャーだと思っているファンにとっては、独立リーグへの関心はさほど高くなかったのです。が、「タイタンズ」には今年、日本人選手が入団したのです。博多出身の福田満樹選手です。九州産業大学野球部の捕手として活躍し、卒業後に単身渡米。今年春のフロリダでの独立リーグ主催のオープン・キャンプに参加していたところ、見事に「タイタンズ」と契約した22歳です。これで、オタワ在住の日本人の間で「タイタンズ」への関心が一気に高まったのです。地元の球団に日本人選手がいるというので俄然応援しなければ、という気分になります。

真ん中:福田満樹選手

(ご提供:山野内在カナダ大使)

タイタンズ」のホームグラウンドはオタワ市ヴァニエ地区オタワ・スタジアムです。8月6日は、このオタワ・スタジアムに「タイタンズ」が米ニュージャージー州の「サセックス・マイナーズ」を招いてのナイト・ゲームでした。そして、このゲームは、特別に「ジャパン・ナイト」と位置づけられ、特別なバナーがSNS等に掲載されました。

(ご提供:在カナダ大使館)

その理由の1つの理由は、今年が日本に野球が紹介されてから150周年の特別な年だという事です。正岡子規の後輩の中馬庚がbaseballを野球と翻訳する何年も前の1872年、明治5年の出来事です。1872年と言えば、カナダが英連邦のドミニオンとして自治をえた1867年のわずか5年後です。野球と日本とカナダの歴史の重なりを実感します。

もう1つは、福田選手の入団です。「タイタンズ」経営陣も日本大使館もオタワの日系コミュニティーも地元オタワの球団に日本人選手がいるというシンプルな事実に大きな意義を見出しています。福田選手は日本とカナダの架け橋です。

8月6日は、事前の天気予報では降水確率が結構高かったのですが、素晴らしい天気に恵まれました。その効果もあって観客は普段よりは多い3千人程でした。加日議連の上院議員は家族連れで、カナダ外務省のアジア部局や米国大使館の外交官らも観戦に来てくれました。

試合前にはオタワ在住の2つの団体が日本文化を紹介しました。午後5時30分、まず、音和太鼓による和太鼓です。昇竜を描写する迫力ある演奏が観客を魅了しました。そして、高知県よさこいアンバサダー絆国際チームとKDCオタワによるよさこい踊りです。Jポップのヒット曲に乗せて子供達含む20人の群舞は観客の眼を釘付けにしました。場内アナウンスでは、「ジャパン・ナイト」の趣旨を丁寧に説明してくれました。

音和太鼓による和太鼓の演奏

(Source:在カナダ大使館FB)

高知県よさこいアンバサダー絆国際チームとKDCオタワによるよさこい踊り

(ご提供:山野内在カナダ大使)

タイタンズ」の選手が守備位置につくと、始球式です。ファースト・ピッチはオタワ日系協会メリッサ・カミバヤシ=ステープル会長です。勿論、そのボールは福田選手がキャッチしました。会場から割れんばかりの歓声が上がりました。

そして国歌です。最初に「ジャパン・ナイト」ということで「君が代」です。オタワ在住のオペラ歌手でソプラノの橋本典子さんの独唱は、球場全体を大変に厳かな空気に包み込みました。異国で聴く「君が代」は本当に格別です。

橋本典子氏による「君が代」斉唱

(Source:在カナダ大使館FB)

その後、不肖私がエレキ・ギターで「星条旗」と「オー・カナダ」をジミ・ヘンドリックスのスタイルで演奏させて頂きました。これまで仲間とバンドを組んで様々な場所で演奏して来ましたが、野球場で自分1人だけで国歌を演奏するのは初めてでした。下手の横好きではありますが、タイタンズとカナダと野球ファンへの敬意と感謝を込めて弾きました。会場の皆様の暖かい拍手は忘れられません。

山野内大使による米加双方の国歌のギター演奏

(Source:在カナダ大使館FB)

午後6時5分、試合開始です。実は、この段階でタイタンズとマイナーズはフロンティア・リーグで同率2位です。シーズン終盤に近づき優勝も狙える位置につけている両球団にとって互いに負けられぬ試合です。白熱の試合は、タイタンズが1回からリードする有利な展開で、前半タイタンズが5対3とリードしていましたが7回に同点に追いつかれました。が、9回裏に劇的なサヨナラ勝ちを収めました。ホーム・ゲームとあって球場は興奮の渦でした。

「ジャパン・ナイト」は、野球の持つ大きな潜在力を改めて示すと同時に日本とカナダの友好親善を深める大変に良い機会となりました。

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