山野内在カナダ大使

日加協会メンバーの皆様、日本とカナダの友好親善に御関心をお持ちの皆様、こんにちは。ここオタワは、10月の声を聞いて、いよいよ晩秋の雰囲気が漂って参りました。最低気温が2℃という日もあります。いよいよ、世界一寒い首都の冬がそこまで来ているようです。この季節、外気温はどんどん下がっている訳ですが、日本とカナダのビジネス関係は熱量をどんどん増しているように感じる今日この頃です。

そこで、今月のオタワ便りは、9月19日、トロントで開催された日本・カナダ商工会議所協議会/合同会合とその流れで20日オタワで行われた関連会合についての報告です。

1. 日加ビジネス関係の新チャプター

今回の日本・カナダ商工会議所協議会/合同会合は、一言で言えば、日加ビジネス関係が新しい段階に入りつつある事を象徴する会合であったと思います。今、正に「カナダ・ルネッサンス」が起こりつつあると実感します。

言うまでもなく、現在の国際経済・ビジネスを取り巻く環境には容易ならざるものがあります。

第1に、今年2月24日のロシアによるウクライナ侵略がもたらしている地政学上のショックです。サプライチェーン、食料、そしてエネルギーに関して国際市場は揺れています。各国が直面するインフレーションには、重層的な背景があるにせよウクライナ危機に端を発したのは明らかです。

第2に、国際社会が2050年のカーボン・ニュートラルを目指して、ビジネス環境が大きく変化しつつあります。急落型の製品や生産方式の変革が求められているのです。

第3に、新型コロナによる影響も未だ続いています。

第4に、今や世界第二の経済大国となった中国の存在です。市場の大きさから大きなビジネスの機会を提供している面も勿論あるのですが、一方で重要鉱物資源等についての経済的威圧の問題も指摘されています。

このような状況の下、カナダの持つ潜在力と機会に関して、日本企業を含め世界が認識し始めています。カナダは食料自給率280%、エネルギー自給率190%の資源大国であるのみならず、AIや量子コンピューター等のハイテク分野での先進性も注目されてます。それ故、エネルギー自給率12%、カロリー・ベース食料自給率37%の日本にとって、カナダとの関係は死活的に重要です。2050年のカーボン・ニュートラルに向けて、国際社会が全体として化石燃料からクリーン・エネルギーへの展開を図りつつしていく上で不可欠な重要鉱物資源の鉱脈も確認されています。

今般の日本・カナダ商工会議所協議会/合同会合は、国際環境が大きく変化している中で、日加間のビジネス・リーダーが濃密な話し合いを持つ絶好の機会となりました。

2.日本・カナダ商工会議所協議会/合同会合〜経緯と成果

日本・カナダ商工会議所協議会は、日加間のビジネス増進のために2014年に設立されました。初会合は2014年11月東京で開催されました。以来、カナダと日本で相互に開催する事になって、2017年4月には仙台で第3回合同会合が開かれています。が、残念ながら18年19年は日程調整等が上手く行かず開催出来ませんでした。日加双方とも満を持して東京オリンピックの年でもある2020年の開催に向け準備を加速していたところ、新型コロナ感染爆発となり、20年と21年はオンライン開催となりました。

従って、今年の合同会合は5年ぶりの対面での日本とカナダのビジネス・リーダーの方々の会合となりました。多くの方々が実感されたと思いますが、新型コロナで対面会合が事実上不可能な状況でオンライン会合は大きな役割を果たしました。しかし、今回、久しぶりの対面会合で、対面でのコミュニケーションの大切さを改めて認識したと多くの参加者が語っていたのが印象的でした。

トロントの合同会合

(ご提供:山野内在カナダ大使)

冒頭、同商工会議所協議会の日加双方会長と日加両国大使が挨拶しました。続いて、3つの分野についてパネルディスカッションです。ここがハイライトです。まずサプライチェーン、次いでエネルギー安全保障、そして食料安全保障です。モデレーターはカナダ商工会議所会頭のペリン・ビーティー氏です。元外相で旭日中綬章も叙勲されている名実共にカナダのリーダーです。今日的課題について、行政、学界の関係者も交え、非常に活発な議論が展開されました。日加間の今後のビジネスの展開に大きな示唆を与えるものであったと思います。

トロントの合同会合:パネルディスカッション

(ご提供:山野内在カナダ大使)

最後に、合同会合で議論した上記の3分野について簡潔にまとめた共同声明が作成され、カナダ側はスティーブ・デッカ会長(カンポテックス社元社長)、日本側は安永竜夫会長 (三井物産会長)が署名しました。イアン・マッケイ大使と私が立会人でした。

共同声明の署名:スティーブ・デッカ会長(カンポテックス社元社長), イアン・マッケイ 駐日カナダ大使, 安永竜夫会長 (三井物産), 山野内勘二 在カナダ大使

(ご提供:山野内在カナダ大使)

3. オタワとビジネスの新しい関係

今回の合同会合に関して特筆すべきは、安永会長率いる日本・カナダ商工会議所協議会日本側代表団に首都オタワを訪問して頂いた事です。オタワは、今やシカゴを抜いて北米第3位のビジネスの街トロントとは比べるべくもない、人口百万程度の政治都市です。が、考えてみれば、市場経済・自由経済と言っても政治と無縁ではあり得ません。政治のリーダーシップとの健全かつ適切な距離感は、新しい分野も含めて今後のビジネス拡大には不可欠です。日本商工会議所にとって今回が初のオタワ訪問でしたが、日本側の真剣度を如実に示すものだったと思います。

タイトな日程の中で、予定を超えて2時間余にわたるシャンパーニュ革新・科学・産業大臣とのワーキング・ランチは、水素、EV、希少鉱物を含め幅広い論点に触れて、カナダ政府の期待の高さを示すものでした。

シャンパーニュ大臣主催ワーキングランチ

(ご提供:山野内在カナダ大使)

イアン・マッケイ 駐日カナダ大使, 山野内勘二 在カナダ大使, シャンパーニュ大臣, 安永竜夫会長 (三井物産)

(ご提供:山野内在カナダ大使)

更に、一行は、カナダ天然資源省及び革新・科学・経済発展省高官から施策説明を受け、質疑応答を行いました。こうしたカナダ連邦政府高官と直接やり取りを出来るのもオタワ訪問の意義の一つだと思います。

最後は、大使公邸でのレセプションです。新型コロナ対策に万全を期し、ジョイス・マレー漁業・海洋・沿岸警備大臣、加日議連所属の上下両院議員、カナダ政府高官の方々に参加頂きました。日加双方で50人余が、公邸自慢の日本料理に舌鼓を打ちながら、自由闊達に日加関係の明るい未来を語りあっている様子は、駐カナダ大使として本当に嬉しい時間でした。

公邸レセプション

(ご提供:山野内在カナダ大使)

4. 結語

今回の日本・カナダ商工会議所協議会/合同会合とその後のオタワでの関連会合は、2022年9月の現実を踏まえた素晴らしいものだったと思います。そして、これからは、議論を形にする事が最も重要です。絵に描いた餅は食べられません。例えば、重要鉱物資源の大きな潜在力と可能性は誰もが言及しますが、実際の開発に当たっては、インフラ、先住民、環境規制という3つの課題に対処する事が不可欠です。

今般、一連の会合に出席して、日加双方のビジネス関係者には、実際の商談に結びつけようとする熱意と戦略があると感じました。微力ながら全力で日加間のビジネスの更なる進展を応援しようと決意を新たに致した次第です

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