Column: オタワ便り NO.45 (2026年1月)
謹賀新年〜日加関係の新しい夜明け
山野内在カナダ大使
日加協会の皆様、日加関係を応援頂いている皆様、令和8年、新年明けましておめでとうございます。
はじめに
現下の厳しい国際情勢の中で、日加関係が政治・安全保障、経済・ビジネス、更に文化・学術交流等々の多岐にわたる面で、大きく発展していることは本当に喜ばしい限りです。
私といたしましても、日加関係の一層の前進に向けて微力ながら最善を尽くす所存でございます。今年も、よろしくお願いいたします。
歴史を紐解きますと、100年前の1926年はカナダにとって大きな節目の年でした。カナダはと云えば、未だ大英帝国の自治領であるドミニオン・オブ・カナダでありました。しかし、大西洋岸から太平洋岸に至る広大な国土を有し、豊富な天然資源を持ち、精力的な移民政策により人口が増加。第一次世界大戦では、大きな犠牲を払いつつ連合国の勝利に貢献したことで、ベルサイユ条約ではカナダは戦勝国として参加し署名しました。そこで、宗主国である大英帝国のバルファア首相は、カナダに対し主権国家としての要件を認めるべきだとする「バルフォア勧告」が議会で可決されたのが1926年でした。
この「勧告」を基礎として、カナダは、正式な主権国家となる1931年のウェストミンスター憲章に先立って、米国、フランス、そして日本との公式な外交関係を樹立していきます。要するに、それまでは日英関係の一部として扱われていた日加関係が自立した関係へと大きく進展したのです。
日本はと云えば、西欧列強に遅れながらも、明治以降の富国強兵と殖産興業でアジアにおいていち早く近代化を達成し、第一次世界大戦では戦勝国となり、戦後に設立された国際連盟において常任理事国となって名実ともに世界の一等国と自負するに至ったのが1926年でした。特に、小麦・水産物・木材・石炭・鉱物等のカナダの豊富な資源は日本にとって不可欠でした。一方で、日本からカナダへの移民流入は微妙な問題を孕みつつも、日加経済関係が大きく進展していきました。
そんな1926年から100年。
令和8年(2026年)の年始です。
年始にあたり、今年を展望するに際して、2025年を振り返ってみたいと思います。日加関係を巡る印象深い出来事が沢山ありました。トルドー首相の辞任表明、自由党党首選、カーニー首相誕生、連邦総選挙、G7カナナスキス・サミット、日加首脳会談、北極哨戒艦HMCSロバート・ハンプトン・グレイ命名式等々について毎月「オタワ便り」で紹介させて頂いています。とは言え、取り上げきれなかったものもあります。そんな中から5つを厳選して共有させて頂きます。
経団連カナダ委員会のカナダ訪問
昨2025年昨2025年12月、双日の藤本昌義会長と日本航空の赤坂祐二会長が委員長を勤めておられる経団連カナダ委員会の代表団がオタワとトロントを訪問しました。12月、双日の藤本昌義会長と日本航空の赤坂祐二会長が委員長を勤めておられる経団連カナダ委員会の代表団がオタワとトロントを訪問しました。
経団経団連のカナダを訪問は実に9年ぶりで、急激に変化し予見可能性が低く不確実性の高まる国際情勢の中で、カナダとの経済関係を強化したいという日本のビジネス界の意欲の表れでした。カナダ側から見ても、“貿易多角化”と“エネルギー超大国”を目指すカーニー政権にとって日本との関係は極めて重要です。この関連で、2025年11月末には、カナダ連邦政府とアルバータ州の間でエネルギー関連インフラの共同推進等に関する協力覚書が署名されていました。今回の経団連訪問のは正に絶妙のタイミングでした。日加間の経済関係の充実ぶりを如実に示す非常に濃密な日程でした。カーニー首相には、公務で超多忙な中、経団連代表団の表敬を受け入れて頂きました。更に、シャンパーニュ財相、アナンド外相、ジョリー産業相、ホジソン・エネルギー相、シドゥー国際貿易相らとは個別に率直な意見交換を行うことが出来ました。連のカナダを訪問は実に9年ぶりで、急激に変化し予見可能性が低く不確実性の高まる国際情勢の中で、カナダとの経済関係を強化したいという日本のビジネス界の意欲の表れでした。カナダ側から見ても、“貿易多角化”と“エネルギー超大国”を目指すカーニー政権にとって日本との関係は極めて重要です。この関連で、2025年11月末には、カナダ連邦政府とアルバータ州の間でエネルギー関連インフラの共同推進等に関する協力覚書が署名されていました。今回の経団連訪問のは正に絶妙のタイミングでした。日加間の経済関係の充実ぶりを如実に示す非常に濃密な日程でした。カーニー首相には、公務で超多忙な中、経団連代表団の表敬を受け入れて頂きました。更に、シャンパーニュ財相、アナンド外相、ジョリー産業相、ホジソン・エネルギー相、シドゥー国際貿易相らとは個別に率直な意見交換を行うことが出来ました。
経団連一行によるカーニー首相表敬
写真提供: 在カナダ日本大使館
経団連側の最大の関心は、2026年に再交渉が予定されているCUSMAです。カナダと米国・メキシコとの間の自由貿易協定の維持が核心です。日本企業に限らず、カナダへ投資している企業から見たカナダの優位性としては、①重要鉱物・レアアースを含む豊富な天然資源、②安定的で包摂的な社会、③効果的な移民制に裏付けられた質の高い人材、④連邦政府・州政府の寛大な支援策が指摘されますが、カナダが世界最大の北米マーケットの不可分の一部である点が大前提なのです。例えば、カナダで生産されている自動車の約75%は日本ブランドですが、大部分は米国市場向けです。
更に、先般、カナダ政府が導入した鉄鋼に関する追加関税について、経団連側からは、WTOやTPPの重要性とカナダのリーダーシップの必要性を指摘しつつ、日本製鉄鋼の適切な取り扱いを求めました。これに対しカナダ側からは、アルゴマ製鉄が1000人規模のレイオフ等の国内産業の苦境に対処する必要性が強調されました。が、厳しい状況の中でも、日加両国は緊密に連携・調整して個別の問題を処理することで一致しました。
そして、今回の訪問のハイライトは、経団連とカナダ・ビジネス評議会(BCC)の間で署名された協力覚書です。日加経済関係の一層の深化を企業レベルで更に強化することを謳った重要文書であり、署名にはアナンド外相と私も立ち合いました。今、日加間では、ZEV、LNG、SMR、リチウム・黒鉛・銅・ウラン等の重要鉱物等大きなビジネス案件が動いています。今後は、更にエネルギー、技術革新、サプライチェーン、脱炭素化等の分野が極めて有望です。この文書が行動に繋がることが強く期待される所以です。
日本原燃六ヶ所村再処理施設の視察
昨年12月の暮れも押し詰まった中、青森県六ヶ所村にある「日本原燃株式会社」の原子力燃料サイクル施設を視察する機会を頂戴しました。と言うのも、2025年10月、日本原燃は原子力発電の原料となるウランを11年ぶりにカナダから輸入したことが話題になっていたからです。
日本原燃六ヶ所村再処理施設視察
写真出典: 日本原燃提供
この背景には、2011年の東日本大震災以降停止していた国内の原子力発電所が、厳格なる安全確保の新規制に基づき、各地元自治体との調整等を経て再稼働していることがあります。原発の原料への需要が高まっているのです。そして、遠心分離機で天然ウランを濃縮する国内唯一の濃縮工場を持つのが日本原燃です。今回、カナダから輸入したのは約620トンで、100KW級の原発2.5基を1年間運転出来る量に相当するそうです。
考えてみれば、エネルギー自給率が僅か12%の日本にとって、エネルギー安全保障は極めて重要な課題です。しかも、温室効果ガス(GHG)排出をゼロとする2050年までのネットゼロ達成を念頭に置くと、安全を十二分に確保した原子力発電は極めて重要なベースロード電源となります。
日本原燃は、1980年に発足した「日本原燃サービス株式会社」と1985年発足の「日本原燃産業株式会社」が合併して1992年7月1日に発足しました。原子燃料サイクルを確立し、新たなエネルギーを生み出して、未来を切り拓くことが使命です。そのため、ウラン濃縮工場のみならず、MOX燃料工場、再処理工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、低レベル放射性廃棄物埋設センターを擁する日本唯一の企業で、我が国の原子力発電の土台を支えています。同時に、日本原燃は、IAEAの保障措置を受け入れ、核不拡散の観点からの日本の透明性を世界に示しています。
日本のエネルギー安全保障の中軸である日本原燃とカザフスタンに次ぎウラン生産世界第2位のカナダが、今般のウラン輸入を含め原子力燃料サイクルにおいて密接な協力を進めていることを非常に意義深いと思います。
MLBワールド・シリーズ
ブルージェイズの本拠地 ロジャース・センター
世界の野球の最高峰であるMLBは、アメリカン・リーグとナショナル・リーグの2つのリーグに所属する30チームが、年間162試合を戦い、覇を競っています。この中で、カナダを本拠にするチームは、トロント・ブルージェイズのみです。かつては、モントリオール・エクスポズというチームがありましたが、2004年に買収されて、現在はワシントン・ナショナルズになっています。その経緯を描いた『モントリオール・エクスポズを殺したのは誰なのか』というNetflixのドキュメンタリー映画もあります。
話をブルージェイズに戻しますと、アメリカン・リーグ東地区所属のブルージェイズは、プレイオフを粘り強く勝ち抜き、32年ぶりにワールド・シリーズに駒を進めました。対するは、二刀流の大谷選手や世界一のピッチャー山本選手を擁するロサンゼルス・ドジャーズです。第7戦までもつれたワールド・シリーズとなったのは記憶に新しいと思います。
最終戦は息を呑む白熱した試合でした。日付を超えて、延長11回にまで縺れ込みました。私はと言えば、ブルージェイズの野球帽を被り、背番号27番ゲレーロJrの公式ジャージを着込んで、オタワ・ダウンタウンのスポーツバーの大画面を前に同僚やカナダ人の観客と精一杯応援しました。優勝にあとちょっとというところでは、非常に残念ながら敗退しました。
ワールド・シリーズに際して、APECで韓国訪問中のカーニー首相もブルージェイズのジャージを着てジョギングする姿をSNSに投稿し話題でした。学校でも職場でもTVでもブルージェイズに因んだ青い衣服に身を包み応援している様は、正にカナダが一体だと実感した1週間でした。
一方、非常に興味深いのは、ブルージェイズの選手の多くは米国籍の選手だということです。カナダ人選手は、主力ではゲレーロJrぐらいです。が、カナダのチームとしてブルージェイズを熱烈に応援している実態は、トランプ政権との間での貿易面での緊張はあるものの、スポーツの世界での両国民の友好親善のリアルを感じた次第です。
そして、多くのカナダの友人達が「ブルージェイズはドジャーズに負けたんじゃない。ヤマモトに負けたんだ」と言います。ワールドチャンピオンを逃した悔しさと同時に、ヤマモトとオオタニに対する惜しみない賞賛を語ってくれます。日本人選手を誇らしく思うと同時に日加間の友情の深まりを実感します。
LNGカナダ
2025年のG7議長国カナダでした。発足直後のカーニー首相は、アルバータ州カナナスキスでG7サミットを主催しました。ウクライナや中東を含め21世紀の苛烈な地政学的現実を如実に反映して活発な議論があった訳ですが、最重要な論点の一つが経済安全保障、特にエネルギー安全保障でした。エネルギーは国の存亡に直結すると同時に、地球温暖化が加速する中、2050年のネットゼロの達成の観点からも極めて重要です。
そんな中、LNGカナダの日本を含むアジア太平洋諸国への液化天然ガスの輸出が遂に始まりました。日本を含むアジア太平洋諸国にとって、信頼の出来る新たな調達先の誕生です。LNGカナダは、シェル、ペトロナス、三菱商事、中国石油、韓国ガスの5社の国際コンソーシアム。事前の詳細かつ慎重な準備を経て、2018年2月、最終投資決定が行われました。BC州東部モントニーで産出する天然ガスを約700km離れた太平洋岸キティマットまでパイプラインで送る、年間の生産量は1400万トンという壮大なプロジェクトです。投資総額は450億加ドル。工事開始の式典でトルドー首相は、カナダ史上最大の民間投資事業であると胸を張りました。とは言え、工事の途中では、新型コロナ感染爆発、人手不足、サプライチェーン混乱等々が次々と発生しました。更に、先住民グループ等の反対運動もありました。関係者は、12,000回に及ぶ個別の会合を通じ、LNGカナダは世界の脱炭素化に貢献すると同時に地元の経済発展に繋がる旨を丁寧に説明。先住民コミュニティーの理解と支持を得るための地道な努力を積み重ねました。その努力が実り、遂に事業が軌道に乗ったのです。
実は、カナダは世界第5位の天然ガス生産国です。国内需要はその半分であり残りの半分は輸出できるのです。但し、従来は米国にしか輸出していません。インフラが決定的に不足していたからです。今般、LNGカナダが新しい道を拓きました。歴史的な出来事です。
G7カカナスキス・サミット
写真出典: 外務省HP
加日議連
いずれの国の議会にも様々な議連がありますが、カナダも例外ではなく数多くの議連が活発に活動しています。民主主義の発露とも言えます。特に、カナダとの二国間関係を推進するための議連は非常に充実している趣です。移民立国であるカナダには実に多様な移民コミュニティーがあるからです。各議員がいくつもの議連に所属しています。地元の選挙区からの支持と支援を得るという意味合いもあるでしょう。
実は、カナダ連邦議会に数多ある二国間議連の中で、議会から正式に予算が配分されている議連は5つしかありません。米、英、仏、中、そして日本です。勿論、予算配分を得ていない議連もイタリア、ドイツ、インド等非常に活発な議連も多数あります。
加日議連メンバーと経団連一行
写真出典: 在カナダ日本大使館提供
ここで強調したいのは、2025年4月の連邦選挙後に改めて各議連のメンバー登録が行われる中で、加日議連が非常に充実して来ていることです。この原稿を執筆している12月22日現在、加日議連のメンバーは208名で、加米議連、加英議連に次ぐ3番目の規模です。しかも第2位の加英議連との差は16名です。加日議連の幹部は、議連勧誘を強化して遠からず加英議連を抜くのだと意気込んでいます。加英議連についてカナダ建国の歴史と現在も英連邦の一員であることを思うと、加日議連の充実は日加関係の充実を反映していると実感します。
上述の経団連の訪問の際にも、加日議連幹部は、連邦議会開会中で議事日程が立て込んでいる中で、十分な時間を取って頂きました。スタン・クッチャー上院議員とテリー・シーアン下院議員の共同議長の采配が鮮やかでした。率直かつ未来志向の有意義な意見交換が出来ました。
特に印象深かったのが、経団連カナダ委員長の赤坂日本航空会長が人物交流の強化こそが日加関係を将来的に強化する旨指摘された点です。これに対し、議連執行委員のモナ・フォーティエ外務政務官が、JETプログラムの果たす役割を高く評価しつつ、今後、カナダ側が日本の大学生をカナダに招待し、日本語・日本文化をカナダの中高校生に教えるような“逆JET”プログラムの導入を検討したいと述べました。自由で柔軟な発想で、新しい時代を切り拓く議連の意義を実感しました。
結語
日加両国を取り巻く国際情勢は厳しく、ウクライナや中東等の苛烈な地政学的な現実に直面しています。また、対米関係に苦慮しています。中国を巡る情勢も容易ならざるものがあります。更に、地球温暖化は待ったなしで、脱炭素化は不可避。エネルギー安全保障と環境政策の両立が難しい課題となっています。また、未来を決めるAI・量子等の最先端技術の進展は著しいものの、同時にプライバシーから国家安全保障に至るまで大きなリスクも指摘されています。そんな中、日加関係の深化は必然だと思います。
令和8年の干支は、丙午です。十干が丙で陽の火を表し、十二支が午で最も勢いの強い火の気を持ちます。従って、丙午は、物事が急激に動く変化・転換・改革の年と解釈されます。
私達は厳しい時代に生きていますが、2026年が日加関係の新しい夜明けを告げる輝かしい年となることを願っています。
(了)
文中のリンクは日加協会においてはったものです。