Column: 新オタワ便り NO.2回 (2026年10月)
新オタワ便り 第2回
中込在カナダ大使
日加協会の皆様、こんにちは。
東京はまだ暑いようですが、オタワでは秋が深まり、美しい紅葉の季節もそろそろ終わりを迎えようとしています。私も先日、オタワ近郊のケベック州側にあるガティノー・パークを訪れ、ピンク・レイクの紅葉を楽しみました。
10月半ばのピンク・レイク
写真提供 中込大使
オタワの秋は短く、10月25日の朝には気温がマイナス2度を記録しました。色づいた葉も枯れ始め、冬の訪れを告げています。
さて、10月はカナダ各地で州議会選挙や州民投票が行われた月でした。5日にはケベック州で州議会選挙、19日にはアルバータ州で独立に向けた一歩を進めるかどうかなど、10項目を問う州民投票がありました。さらに24日には、ブリティッシュ・コロンビア州で州議会選挙が行われました。このほか、オタワやトロント、バンクーバーなど各地で地方選挙が行われました。
今回のオタワ便りでは、政治地図が大きく塗り替わったケベック州とブリティッシュ・コロンビア(BC)州の選挙、そして連邦の結束が問われたアルバータ州の州民投票を取り上げます。その結果を手がかりに、カナダの民主主義と分離独立の動きについて考えてみたいと思います。
ケベック州選挙
写真出典:Reuters
1 ケベック州選挙
10月5日のケベック州選挙では、州の政治地図が大きく塗り替わり、8年ぶりに政権が交代しました。これまで政権を担ってきたケベック未来連合(CAQ)は、選挙前に有していた79議席をすべて失う惨敗を喫しました。これに対し、野党で独立派のケベック党(PQ)は、選挙前の7議席から60議席へと大きく躍進しました(写真:Reuters)。過半数の64議席には届かなかったものの、第一党となり、10月21日にはポール・サン=ピエール・プラモンドン党首が正式に州首相に就任、少数派政権が発足しました。
興味深いのは、ケベック党が過半数に迫る60議席を獲得した一方、得票率は28%と、3割にも満たなかったことです。ケベック州では主要5党に票が分散しました。その中で、各選挙区で最も多くの票を得た候補者が当選する小選挙区制のもと、ケベック党は得票率を大きく上回る議席を獲得したのです。
ただし、独立派のケベック党が第一党になったからといって、有権者が分離独立を支持したとは必ずしも受け止められていません。同党は当初、政権の第1期中に独立の是非を問う州民投票を行うと明言していましたが、選挙戦の開始直前に、実施時期をトランプ大統領の任期が満了する2029年以降とするよう公約を見直しました。10月20日付の世論調査でも、ケベック州の独立への支持はおおむね3割程度です。
では、なぜケベック党が勝利したのでしょうか。報道や専門家の分析では、ケベック未来連合政権への不満が広がる中、ケベック党が、とりわけフランス語話者の支持を集めたことが挙げられています。また、独立を問う州民投票に反対する有権者の票が、自由党と保守党に分かれたことも有利に働きました。
なお、ケベック州では、これまで少数派政権の存続期間はいずれも2年以下でした。直近では、2012年9月に成立したケベック党の少数派政権は2年継続せず、2014年4月までで終わりました。今回の政権が、2年を超え、トランプ大統領の任期が満了する2029年1月まで続くかどうか注目されます。
ケベック州議会選挙結果
(10月21日の司法再集計を反映。かっこ内は改選前議席)
• 総議席:127
• ケベック党(PQ):60議席(7)
• ケベック自由党(PLQ):39議席(18)
• ケベック保守党(PCQ):19議席(1)
• ケベック連帯(QS):9議席(11)
• ケベック未来連合(CAQ):0議席(79)
2 アルバータ州民投票
ケベック州選挙の2週間後、10月19日には、カナダ中の注目を集めた州民投票がアルバータ州で行われました。
アルバータ州民投票
写真出典:Global News
10の設問のうち、第10問はアルバータの独立に関するものでした。アルバータ州がカナダの一州として残留するか、それとも将来、分離独立の是非を問う拘束力のある州民投票に向けて、州政府が憲法上必要な法的手続きを開始すべきかを問うものです。
10月26日現在の暫定結果では、約75%という圧倒的多数がカナダ残留を選びました。事前の世論調査では、アルバータにおける独立支持は3割程度とされていたので、おおむね調査に沿った結果となりました。投票率は70.4%で、前回の州議会選挙の約60%を10%上回りました。
将来の州民投票に向けた手続きを求めた約25%の中には、独立そのものを支持するというより、連邦政府のアルバータ州への対応に不満を示したかった人たちの票も含まれているといわれます。グローブ・アンド・メール紙に掲載されたアンドリュー・コイン氏の論説(2026年10月21日付)は、世論調査をもとに、この票の3分の2は抗議票だとしています。
カナダでこれまで分離独立の是非を問う州民投票が行われたのは、ケベック州だけで、1980年と1995年の2回でした。ケベックの独立派の主張を簡単に言えば、同州はフランス語社会として独自の歴史、言語、文化を共有するネイションであり、フランス語を中心とする社会を維持し、自ら将来を決める力を持つには独立が必要だというものです。
一方、アルバータの独立派の主張は、論者によって異なるものの、かなり趣が違います。その背景には、長年、西部で問題となってきた「西部の疎外」(western alienation)があります。
連邦政治は東部のオンタリオ州やケベック州に支配され、西部の声が届いていない。西部には石油などの豊富な資源があるのに、そこで生まれた富は税金として連邦に吸い上げられ、その使い道も東部のエリートに決められる――そうした不満です。
近年は、経済・環境政策で西部の利害が十分に考慮されていないとの不満も募っていました。特にアルバータ州では、豊富な原油やガスの開発を、自由党政権率いる連邦政府が環境規制などによって不当に制限しているとの不満が強くありました。
スミス・アルバータ州首相は就任以来、州の権利を強く主張し、それを侵害すると考える環境・資源関連政策の変更や撤廃を連邦政府に求めてきました。カーニー首相は州側の懸念に応えようと粘り強く協議を重ね、両政府は2025年11月に覚書を、2026年5月にはその実施に向けた協定を結びました。
しかし、スミス州首相は2026年5月、独立への道を問う設問を州民投票に加えると決めました。
きっかけは、州裁判所が同月、州政府が先住民との協議義務を果たしていなかったことなどを理由に、独立支持派による住民発議(citizen initiative)の承認を取り消したことでした。独立をめぐっては、先住民の条約上の権利も重要な争点です。複数のファースト・ネーションズ(先住民族)は、州の独立がカナダ連邦との条約関係や土地に関する権利に影響を及ぼすと懸念し、この住民発議を争っていました。
州政府は判決を控訴しました。一方、スミス州首相は、独立派と残留派それぞれの住民発議に多数の署名が集まったことを理由に、独立そのものではなく、将来の独立を問う州民投票に向けた法的手続きの開始を問う別の設問を、10月の州民投票に加えました。首相自身は、カナダ連邦残留に投票すると明言していました。
カーニー首相も、カナダの一体性を守ろうと、アルバータ州と西海岸をつなぐ原油パイプラインの増強計画「パシフィック・リンク」を国益プロジェクトに指定するなど、州民の要求に応える措置を取りました。
カーニー首相は、更に、投票の1週間前にはビデオメッセージで残留を呼びかけ、直前には2日間にわたってアルバータ州を訪れ、残留支持派の集会にも参加しました。こうした首相自らの取り組みは、重要な資源州であるアルバータがカナダにとどまることが、国の将来にとっていかに重要かを示すものでした。
3 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州選挙
10月24日には、西海岸のブリティッシュ・コロンビア(BC)州で州議会選挙が行われました。野党の保守党が、約9年間政権を担ってきた新民主党(NDP)に圧勝し、政権交代が確実になりました。BC州で保守党政権が成立すれば、1928年以来、ほぼ100年ぶりとなる歴史的な結果です。
ブリティッシュ・コロンビア州選挙
写真出典:The Globe and Mail
今回の選挙は、イービー州首相が5週間前、前回選挙から約2年というタイミングで議会を解散したことによるものです。
イービー州首相は、与党が議会でわずか1議席の多数しか持たず、審議が常に難航していたため、州民の信を問い、十分な議席を得て政策を進めたいと説明しました。一方、混乱する保守党を見て、イービー州首相が今なら勝てると判断したのではないかとの批判もありました。
議会解散前の保守党では、フィンレイ前党首の下で党内対立が深まり、多くの議員が離党し、前党首も辞任に追い込まれていました。イービー州首相が選挙を発表したのは、保守党党首辞任後のわずか2日後です。
しかし、保守党は暫定党首のドークソン氏の下で結束し、混乱を収めて大勝しました。州民のイービー州首相への不満が選挙結果に表れたと分析されています。
ブリティッシュ・コロンビア州議会選挙暫定結果(10月26日現在)
(括弧内は改選前議席)
• 総議席:93(過半数47)
• BC保守党:63議席(29)
• BC新民主党(NDP):28議席(47)
• BC緑の党:2議席(2)
4 州選挙と州民投票についての若干の考察
こうした選挙と州民投票の結果から、何が見えてくるでしょうか。
第一に、多くの先進民主主義諸国と同様、カナダでも政治への不満が根強く、有権者が変化を求めていることです。その思いが、ケベック州で約8年ぶり、BC州で約9年ぶりの政権交代につながったのだと思います。アルバータ州のスミス州首相が独立への道を問う州民投票を決めたことにも、州民の政治への不満に応える側面があったのでしょう。
もちろん、ケベック州とBC州の事情は大きく異なり、選挙結果はそれぞれの事情を反映しています。それでも、ケベック州では与党が全議席を失い、BC州では野党保守党が5割近い得票率で圧勝しました。両州の政治は、選挙によって一夜にして大きく転換しました。物価高や医療、住宅問題への不満、そして変化を求める声が、その原動力の一つになったのではないでしょうか。
同時に注目したいのは、変化を求める声が、欧州の多くの国で見られるような極右あるいは極左といわれる急進政党の躍進ではなく、主要政党間の政権交代という形で現れたことです。
フランスでは現在、大規模なデモが各地で起こり、一部は暴徒化して大きな混乱を引き起こしています。来年の大統領選に向けては、国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏がリードしています。
ドイツでは、これまで政権を主導してきた社会民主党(SPD)とキリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)への支持が低迷する一方、ドイツのための選択(AfD)が躍進しています。英国では、労働党の支持は最近回復していますが、保守党は低迷し、ブレグジットを主導した一人として知られるファラージ氏率いるリフォームUK(改革党)が高い支持を得ています。
一方、カナダでは2025年の国政選挙でも二大政党に約85%の票が集まるなど、主要政党への支持が引き続き高いことが特徴です。今回、ケベック州とBC州の有権者が求めた変化も、主要政党間の政権交代という形で現れました。欧州と比べれば、カナダは比較的安定した政治状況を実現していると私は考えます。
とはいえ、「政治が比較的安定している」と言えば、ケベック州では独立派が政権を握り、アルバータでも独立問題が浮上しているではないか、とのご批判を受けそうです。この点を第二の論点として考えてみたいと思います。
アルバータ州民投票では約75%がカナダ残留を選びましたが、分離独立問題がこれで「一件落着」とはなりそうにありません。
スミス州首相は結果を受け、アルバータ州民に対し、結果を受け入れて「a stronger Alberta in a united Canada」(統一したカナダにおける強いアルバータ)を実現しようと呼びかけています。しかし、スミス州首相率いる(アルバータ州の)統一保守党(UCP)内の独立派は、引き続き独立を訴えると述べ、まずはスミス州首相を党首の座から引きずり下ろそうとしています(10月20日付ナショナル・ポスト紙など)。
アルバータ州全体では残留が圧倒的な支持を得たものの、統一保守党内の独立派は根強く、スミス州首相が党首の座を守れるか注目されます。今回の結果から、すぐに再び州民投票が行われることはないでしょうが、今後も目が離せません。
ケベック州では、前述のとおり独立を訴えるケベック党の政権が誕生しました。トランプ大統領の任期中は独立を問う州民投票を行わないと公約しているものの、分離独立が再び州の重要な政治課題となったことは確かです。
こうしてカナダは、ケベックとアルバータという二つの重要な州に分離独立問題の火種を抱えることになりました。さらに、アルバータの問題の背景には西部の疎外感や地域主義があり、同州だけの問題ではありません。カナダ国籍も持つイーロン・マスク氏は、アルバータの州民投票に先立つ2026年10月7日、アルバータだけでなくサスカチュワンも独立すべきだとXに投稿しています。
一部の政治学者は、カナダの政治制度を「遠心的連邦制」と呼びます。回転する物体に中心から離れる遠心力が働くように、カナダは各地方が中央から離れて自立しようとする力を持つ連邦国家だ、という意味です。
1990年代、連邦政府はケベックの独立問題に対処するため、憲法改正案など、同州にさまざまな譲歩を行いました。西部では、こうしたケベックへの対応が特別扱いだとして強い反発を招き、地域主義を強めました。
カナダで州の権限が強い理由を考えるには、州の面積が大変大きいという事情も考慮する必要があるでしょう。今回州民投票が行われたアルバータ州は日本の約1.75倍、ケベック州は約4.1倍の面積があります。
それにしても、日本のような中央集権国家から来た私には、カナダの州政府の力の強さは驚くほどです。各州には首相や大臣がいて、州首相は州議会の解散権を持ちます。州は独自に課税し、財政を運営し、医療、教育、天然資源などを管轄します。
州が強い権限を持つため、連邦政府と州が協議し、合意を結ぶこともごく普通に行われています。前述のアルバータ州との覚書や協定もその例です。
また、カナダには連邦首相と各州・準州の首相が集まる「First Ministers’ Meeting」(連邦首相・州準州首相会議)があります。日本でも全国都道府県知事会議が年に1回開催され、総理もその一部に出席します。この会議の目的は、政府と地方自治体の「密接な連絡を図る」ことにあるとされています。少し乱暴に言えば、全国の知事が総理や大臣に要望を伝える機会です。
一方、カナダの連邦首相・州準州首相会議は、連邦と州の協力の重要性から、より実質的な議論を行う場になっているように思います。公式発表によれば、今年は1月、6月、7月に2回、8月に2回の計6回すでに開かれ、米国との貿易問題などが話し合われました。10月には、ファースト・ネーションズの指導者と連邦・州の首相が出席する会議も20年ぶりに開かれています。
これには、連邦政府にとっても、州と話し合うべき具体的な課題があるという事情があります。例えばオンタリオ州では、米国の対カナダ関税への対抗措置として、州政府の指示を受けた酒類管理局(LCBO)が、2025年3月4日から米国産酒類の仕入れと販売を停止しています。米国政府はこれを問題視し、カナダとの交渉で取り上げています。州政府の協力なしには、貿易交渉もうまく進まないわけです。
今年8月、米国との貿易交渉が重要な局面を迎えた際にも、交渉停止を発表した8月21日の前後、19日と21日の2回、連邦首相・州準州首相会議で議論が行われました。日米貿易交渉の重要な局面で、日本の総理大臣が全国知事会議で知事と協議して対応するといったことは、よくも悪くも、想像しにくいでしょう。
先ほど述べたように、カナダの連邦制は一部の学者から「遠心的」と呼ばれる一方、1995年のケベック州民投票以降、その遠心力を管理してきたとも評価されています。連邦首相・州準州首相会議をはじめとする連邦と州の協力の仕組みは、そのための重要な手段でした。
1980年と1995年のケベック州民投票はカナダを大きく揺るがしましたが、その後、同州で独立の是非を問う投票は行われていません。今回の選挙まで政権を担ったケベック未来連合の州政府と連邦政府の間でも、さまざまな協力が進んでいました。
アルバータとの関係でも、カーニー首相が州の求める政策を進めたことは、州民投票で残留が圧倒的な支持を得る上で大きな役割を果たしたと考えられます。連邦と州の協力は、カナダの遠心力を抑えるうえで重要な役割を果たしてきたのです。
現在、米国との関係が困難な状況にある中、カナダは、カーニー首相の下、かつてなく結束していると言われます。今回のケベック州選挙とアルバータ州民投票を経て、両州の分離独立の動きはどうなるのでしょうか。カナダは今後も、連邦制の遠心力とうまく向き合っていけるのでしょうか。引き続き注目していきたいと思います。
(了)
文中のリンクは日加協会においてはったものです。